La parva

3. 南米のスイス編 (7/22〜7/23)

●24時間バスの旅

さて、次なる目的地である、アルゼンチンの都市「サン・カルロス・デ・バリローチェ(以下バリローチェと略します)」に向かう夜行バスに乗り込みました。サンチアゴからバリローチェに行く場合、まずチリの海岸線に沿って900kmほど南下、プエルト・モンという都市のちょっと手前で東に進路を変え、直線距離にして100kmほどのところにバリローチェがあるという位置関係になります。東京から広島あたりまで高速で行き、そこから一般道で山陰に出るような感じでしょうか。まあ翌日の朝には着くだろうとタカをくくって乗り込みました。この距離で値段は3000円かそこらですから、お世辞にも快適とはいえないバスですが、眠ってしまえばどうということもありません。途中で喉が乾いたので車掌からコカコーラを買ったら、懐かしい200ccの瓶にストローを差して渡してくれました。

バスは順調に国道を進み、朝食休憩の頃には海沿いの南下を終え、アンデス方向へ曲がろうかという感じでした。なかなか順調だな、と思いながら窓の外を見ていると、徐々に山道っぽくなり始め、あたりにも雪が多くなってきます。いうまでもなく、南半球では南に行くほど寒くなりますから、サンチアゴに比べると随分寒い地域にやってきたということになります。これまでずっと時速100kmぐらいで走っていたのが、急に30kmぐらいしか出せなくなりました。それでもまあ着実に進んでいるなと思っていたら、前方に検問所のようなものが。どうやら国境のようです。これまでにもアメリカ−カナダ間やドイツ−スイス間など、陸路で国境を越えたことは何度かありますが、どれも人々が日常的に行き来しているようなところ。このような本格的な国境を越えるのは初めての経験です。ちょっと緊張しながらバスを降りて手続きに向かうと、これがなかなか厳しいようです。なかなか自分の順番が回ってこないのをじっと待ち、ようやく自分の番だと思ったら実に入念な荷物チェック。もちろんやましいことは無いので心配することもないのですが、やはりドキドキします。それが終わって私はバスに戻ることを許されたのですが、全員のチェックが終わるまでにはまだ随分かかりそうです。でも、周囲の乗客たちは一向に焦る気配もなく、どうやらこれがいつものペースということのようです。結局国境のチェックで一時間以上かかり、ようやくアルゼンチンへと足を踏み入れたというわけです。

ところがこのあたりから様子が怪しくなってきました。ちょっと進んではバスが止まってしまい、そのまま何十分も動きません。あたりの雪はかなり深く、なんかトラブルだろうかとも思うのですが、車内アナウンスも無いし、周囲の人の話し声も理解できないしで、何が起こっているのかまったくわかりません。みんな全然心配そうにはしてないので、一大事というわけではなさそうなのですが、これでいったい大丈夫なんだろうかという気になってきます。しばらく止まっていると、前方の雪の壁の横から除雪車がやってきました。どうやらこれとすれ違うのを待っていたようです。しかしこれですべて解決というわけではなく、その後もしばらく進む度に謎の停車を繰り返し、そうこうしているうちに段々と日が傾いてきました。見知らぬ街で、今夜の宿も決まっていない状況でもあるし、あんまり遅い到着も心配だなあ、と思いつつ、あとはもう運を天に任せるしかありません。

Baliroche ようやく車窓から湖が見えてきました。バリローチェの街が近づいてきたようです。さすがにバスが止まることはなくなり、綺麗に鋪装された道を快適に走るようになりました。とはいえ周囲はもう真っ暗。結局バリローチェのバスターミナルに着いたのは、夜の7時を過ぎていました。出発が前夜8時ですから、ほとんど24時間のあいだバスに乗っていたということになります。

バリローチェのバスターミナルは、街の中心部からちょっと離れたところにあります。そして天気は雨。とにかく中心部に向かって歩きます。雨といってもほとんど氷雨、寒いです。10分ぐらい歩いたところでどうやら街らしくなってきました。「地球の歩き方」で現在地を確かめ、とにかく一番近そうなホテルに直行しました。英語は通じませんでしたが、覚えたばかりの「部屋はありますか?」が何とか通じて、やっと暖かい部屋とゆっくり眠れるベッドを手に入れたのでした。一息ついたところで夕食の買い出し、空腹を満たすだけで食事を楽しむ余裕もなく、そのまま熟睡したのでした。

●パタゴニアの絶景

翌朝、スキーウェアに着替えると、街の中心部まで歩きます。アルゼンチンでは、1ペソ=1米ドルの固定相場制を取っており、どこでも米ドルが使えてしまうので、両替のこともあんまり心配する必要もありません。さて、このあたりからカテドラル山スキー場行きのバスが出ているはずなのですが、場所がよくわかりません。通りがかった人に「どこ、バス、カテドラル山?」ってな感じで適当なスペイン語で聞いたら、どうにか通じたのかバス停の方角を指差してくれました。無事にバスに乗り込むと、30分ほどでスキー場に到着しました。さっそくスキーをレンタルし、それからリフト券売場へ。ここでは顔写真入りのリフト券を作ってくれました。

"Cerro Catedral(カテドラル山)"スキー場は、標高差約1000m、ゴンドラもある立派なスキー場です。ただし、山頂の標高は2000mちょっとしかなく、一昨日に行ったところに比べると随分と落ちます。また、このあたりは既に「パタゴニア」と呼ばれる南米大陸突端部の気候に入っており、雨が多く、そのせいかちょっと湿っぽい雪質です。しかし、このスキ−場にはそんなことを忘れさせる素晴らしいものがあることに、最初の一本の滑走で気付いてしまいました。それは、、、

Nahuel Huapi湖

山頂付近から見た、"Logo Nahuel Huapi(ナウエル・ウアピ湖)"の絶景です。

カテドラル山スキー場 パタゴニア独特の、厚く垂れ込めた雲の向こうに、入りくんだ形のナウエル・ウアピ湖が、雪を冠った山々に囲まれています。その独特の雰囲気は、これまでに見たどのスキー場とも違う、何とも形容しがたいものでした。湿気の多いこのあたりの空気の感触と、雲の色、空の色、湖面の色、それらが私の下手な写真では十分に伝わらないのが残念ですが、昨日の24時間バスの旅の疲れが一気に吹っ飛んでしまうような眺めでした。なんだかもうすっかり満足です。それでもスキー場は十分に広いので、景色を堪能した後はあちこちのコースを滑りまくります。スキ−場の上半分は、写真にもあるような剥き出しの岩と雪、そして下半分は、木々に囲まれた林間コースが中心です。一番下まで滑り降りたら、さあ今度はゴンドラだ。と思ったら、ゴンドラ乗り場は遥か向こう。ビレッジに向かって坂道を随分と登らなければなりません。朝一には便利だけど、二本目以降は随分と不便な作りだよなあ。もしかしてアルゼンチンの人は一日に何本もゴンドラに乗ったりはしないのだろうか?なんてちょっと不思議な感じでした。

バリローチェの公園 このスキー場は横にも結構広く、ゴンドラで山頂まで登ると、さっきとはまたちょっと違う雰囲気の中を滑ることができます。La ParvaやValle Nevadoと同じく、それほどチャレンジングな斜面はありませんが、とにかく上半分では開放的なゲレンデと眺めを楽しみ、下半分では林間コースをのんびり滑る、そんなことをしているうちにあっという間に帰りのバスの時間になってしまいました。帰りは街の中心部に向かうバスしかないので間違える心配もなく、スキーの余韻を噛みしめているうちにバリローチェに帰り着きました。陽が沈むまでにはまだしばらくありそうなので、のんびり街を散策したり、お土産屋さんで絵葉書を買って近所の公園で手紙を書いたり、旅行代理店を覗いて明日の計画を考えたり、そんなこんなで徐々に日が暮れてきたのでした。


アンデス横断編に進む


旅行記の表紙に戻る / スキーの表紙に戻る