1. 計画

〜2014/2/21

「時刻表2万キロ」という本がある。

紀行作家・宮脇俊三氏が、とにかく国鉄(現在のJR)のいろんなローカル線に乗りに行く話である。ローカル線をスキー場に変えると私の趣味になる。世の中にはいろんなローカル線がありスキー場があるのだから、訪問してみたいのである。制覇したいのである。なぜかと聞かれれば色々と回答を考えてみるが、結局こういった趣味というのは、わかる人にはわかるし、わからない人にはわからないのだろう。

インターネットで調べると、500とか600とかのスキー場を制覇した人が見つかる。私の場合、やっと300を超えたところである。しかしそんなものを比べてどうなるものでもない。スキー場との出会いはまさに一期一会である。天気がちょっと変われば印象はがらりと変わる。だから自分なりのスキー場の思い出を貯めていけばいいのだが、そうはいっても数字も気になる。勤続20年で一週間の休暇が取れることになったとき、どこに滑りにいこうかと考えて、やっぱりスキー場の数に影響されてしまった。

実は、計画を立て始めた時点では、スキーアマデという名前は知らなかった。アマデウス・モーツァルトで有名な、オーストリア・ザルツブルグの近くにあることにちなんだネーミングらしい。アルプス山脈の東の端あたりに位置することになる。シュラドミングというスキー場は聞いたことがあったけれど、ヨーロッパのビッグネーム、たとえばエスパスキリーとかツェルマットとかドロミテとかの方が気になっていた。しかしひょんなことで「スキーアマデとは28個のスキー場が連結したエリアである」という記述を見つけ、どうにも気になってしょうがない。そして調べれば調べるほど魅力的に思えてきて、いつのまにかすっかりここに行く気持ちになってしまっていた。

Ski amade

Ski amade ウェブサイトより取得(2014)

それでは本当に28個のスキー場があるのか。確かめないわけにはいかない。公式ウェブサイトでエリアマップを入手してみた(上図)。それっぽい名称が地図上に記されているので、さっそく数えてみる。1,2,3,...あれ、29個ある。もう一度数えてみた。やはり29だ。しかし良く見てみると、Hüttschlagというところには全くリフトが記されていない。これはスキー場ではなく、村なり集落なりの数を数えているんじゃなかろうか。困った。興味のない人にはどうでもいい問題かもしれないが、スキー場が何個あるかというのは大問題なのだ。そういえば、「時刻表2万キロ」でも、ローカル線の営業キロ数の計算方法について、実に細かいところまで薀蓄が述べられていた。マニアというのはそういうものなのだ。

いっぽう公式ウェブサイトでは、個々のスキー場ごとにリフトやコースの一覧が載っている。それならこっちの方が正確ではなかろうか。しかし、全体図上の区分けとは微妙にずれているところがあり、ちょっと悩ましい。例えば、Zauchensee, Flachauwinkl, Kleinarlは全体図では3つのエリアとされているが、スキー場としては、Zauchensee-FlachauwinklとFlachauwinkl-Kleinarlの2つとされている。Flachauwinklの中央部はアウトバーンで分断され、お互いを行き来するには連絡バスなどに乗る必要があることからしても、後者の分類の方が正確である。もっともこうしたことは、後に実際に訪れてみて初めてわかったことなのであるが。

そういうわけで、どうやらスキー場の数は25とするのが正確らしい。ちなみに、一年後の2015年に調べてみると、Wikipedia(英語版)では今も28個のスキー場と書かれているが、公式ウェブサイトには28という記載は見当たらない。それどころか、"25 villages"という表記があったりして、悩みだすときりがないのだが、以下では25個のスキー場という立場で話を続けていこうと思う。

Ski amade & Nagano

(c) OpenStreetMap contributors, CC-BY-SA

さて、実際のところスキーアマデというのはどれくらい広いのか。上の図は、スキーアマデ一帯と長野付近とを同じ縮尺の地図で示したものである。左の図を見ればわかるように、スキーアマデ全域は、おおまかに5つのエリアに分けられている。もっとも、Großarltalというのはスキー場が2つしか無い小さなエリアで、実質的にはGasteinエリアの一部と思った方がわかりやすい。そういうわけで、私としては「スキーアマデは大きく4つのエリアで構成されている」という理解で計画を進めるのだが、ともかく、これら4つのエリアに含まれる25個のスキー場が、すべて一枚のリフト券で滑れるわけだ。一方、右の図には、志賀高原・野沢温泉・斑尾・妙高・白馬など、日本を代表する数多くのスキー場が含まれている。しかし、二つの図の縮尺が同じであることを考えると、どうもスキーアマデの方に軍配が上がるように見える。右の図に示されたスキー場を全部滑るなんて考えたら、それだけでもとんでもないことのように思えるけれど。

いささか理屈っぽい話が続いて恐縮だが、もう一つ、標高差による比較というのもしてみたい。スキー場の規模を示す数字として、リフトの本数や滑走距離などいろいろあるが、個人的には標高差が最も重要な要素だと思っている。そこで、スキーアマデ対全日本で標高差比べをした結果が下の表である。
(日本のデータはhttp://snow.tabiris.com/ranking12.htmlから引用)

Ski amade標高差(m)全日本標高差(m)
1Schlossalm & Stubnerkogel1,461かぐら1,225
2Hauser - Kaibling1,287妙高杉ノ原1,124
3Dorfgastein1,184野沢温泉1,085
4Planai - Hochwurzen1,163竜王スキーパーク1,080
5Großarltal1,122白馬八方尾根1,071
6Zauchensee - Flachauwinkl1,097志賀高原982
7Ski Reiteralm1,095富良野964
8St.Johann - Alpendorf1,068ニセコグラン・ヒラフ940
9Sportgastein1,066白馬五竜926
10Wagrain1,063草津国際926

見てのとおり、スキーアマデの圧勝である。標高差1,000m以上のスキー場は日本でも5つしか無いのに、スキーアマデではベストテン全てが標高差1,000m以上である。単に数を寄せ集めただけではない、一流のスキー場を取り揃えた25個という数字なのだ。いやまいった。行かずにはいられないではないか。

Snow

行くと決めたら具体的な計画である。必要なのは、航空券・宿・現地移動手段の三つである。もっとも近い国際空港はザルツブルグだろうが、ミュンヘンからでも200km程度であり、飛行機の便はこちらの方が良さそうである。宿は公式ウェブサイトで見つかりそうだ。現地移動手段は、これだけ多くのスキー場を移動するとしたら、レンタカーしかありえないだろう。そういうわけで、いろいろと調べて考えた結果、こんな旅程になった。

2/21(金)(深夜発)羽田 -
2/22(土)- Dubai - München (泊)
2/23(日)München - Kitzbühel - Wagrain (泊)
2/24(月)Wagrain (泊)
2/25(火)Wagrain (泊)
2/26(水)Wagrain (泊)
2/27(木)Wagrain (泊)
2/28(金)Wagrain (泊)
3/1(土)Wagrain - München -
3/2(日)- 羽田(深夜着)

羽田発着の深夜便が安くて見つかったのは助かった。5日の休暇に前後の週末をつけると9連休だが、金曜深夜発なら仕事が終わってからでも間に合うし、日曜深夜着なら月曜の仕事にも支障が無い。エミレーツ航空なのでドバイ乗り換えとなるが、許容範囲内だろう。ミュンヘン着は夜になるので、その日は近くに泊まらざるを得ないが、翌日の行動をどうしようかと考えていたときに、ミュンヘンからスキーアマデに向かう途中にキッツビュールがあることに気が付いた。知る人ぞ知るなかなかの大物である。スキー場の規模こそ超一流とまでは行かないものの、いわゆる「ヨーロッパの社交場」的なところであり、クラシック三大レースの一つであるハーネンカム大会が開催されることでも知られている。スキーアマデが、全体としては脅威のスペックであるものの、いまひとつ華のあるスキー場に欠けるかなと思っていただけに、これにキッツビュールを加えるというのは絶妙の組み合わせである。

スキー場の宿は、Wagrainというところにある小さなペンションを予約した。4大エリアのひとつであるSalzburger Sportweltの真ん中にあり、スキー場めぐりの地の利という意味では文句なしと言える。ただ、一人旅なので安いところでいいと思ったら、クレジットカード決済ができず、予約金の振込で一苦労した(シティバンクさんありがとう)。ミュンヘンの宿も抑え、これに安さで知られるThriftyのレンタカーを加えて準備完了である。おっとっと、忘れてはいけない。帰国便が深夜着で自宅まで帰れないので、羽田空港内のカプセルホテルを予約した。ここに1泊して翌日はそのまま仕事に行く予定である。

Map of Austria

(c) OpenStreetMap contributors, CC-BY-SA

オーストリア全体図(上)で、もう一度行程を確認しておこう。ミュンヘンからスキーアマデまでは、ザルツブルグ経由なら高速だけで行けるが、キッツビュール経由でもそんなに遠回りではないだろう。ちなみにオーストリアで有名なもう一つのスキーエリア・アールベルグがあるのは、左の方ににょろっと伸びた部分の先端付近である。そのちょっと右にはオリンピックで有名なインスブルックもある。

さあこれで準備完了、あとは出発の日を待つだけかと思っていたら、妻から思いがけない言葉をかけられた。「ドバイといえば、屋内スキー場があるらしいね…」なんということだ。確かにそんな話を聞いたことがあったような気はするが、全く思慮の外だった。急いで情報をチェックすると、空港から地下鉄で簡単に行けるらしい。幸いなことに、乗り換え時間はたっぷりとある。思わぬ僥倖で目的地がひとつ増えて、いよいよ出発の日を迎えることになった。

目次 ページ先頭へ 次のページ