4. 行動パターンの確立 (Salzburger Sportwelt)

2014/2/24

朝4時に目が覚めた。時差で早起きになるのは織り込み済みなので、今日の予定を考えたりメールをチェックしたりして朝の時間を過ごす。外を見ると、徐々に夜が明けてくる。どうやら今日も良い天気のようだ。朝食の時間になったのでダイニングに向かう。同宿の人たちが次々と現れる。どうやら自分の他に3組の人たちが滞在しているらしい。

今日もすっかり満腹になって出発。Wagrainという町は、二つの山に挟まれた谷底にある。両側の山の斜面を総称してWagrainのスキー場と呼んでいるらしい。谷を挟んだ両側を、スキーを履いたまま行き来できるように、G-Linkというゴンドラが架かっていて、ちょうど昨日のKitzbühelにあった3Sを一回り小さくしたような感じである。ただし、山麓のリフト乗り場は両側でかなり離れているので、まずはどちらに行くのか決めなければならない。ここHaus Holzerからは、東側にあるGrießsenkareckというゲレンデに向かう方が近いので、のんびり歩いてみることにした。ところが、歩き出したとたんに無料のシャトルバスが来たので、せっかくだから乗ってしまう。このバスは西側のGrafenbergのリフト乗り場に向かうもので、ほどなくセンターハウスに到着した。

今日は月曜日だが、結構な人出である。3SやG-Linkのような最新鋭のゴンドラや、8人乗りリフトを惜しみなく架けていく様子などからしても、ここオーストリアでは、スキーは完全に商業ベースに乗ったレジャーとなっているようだ。すっかり斜陽となってしまった日本とは大違いである。さっそくリフト6日券(227€)を購入。一日あたり5,000円強だから、決して安くはない。しっかりと料金を取って、それがちゃんと設備投資にも回っているのだろう。

Wagrain to Alpendorf

まずは最初のゴンドラに乗り込み、標高差850mを一気に登る。ここから西へ向かって複雑な地形が続き、そのまま隣のAlpendorfというスキー場に滑り込めるようになっている。ゴンドラを降りて前方を見ると、小さな谷と、その向こうの尾根に向けてコースが続くのが見える(上の写真の左)。そしてその尾根までたどり着くと、さらに次の谷と、その向こうの尾根が見える(上の写真の右)。こういう複雑な地形は、なんだかわくわくする。

やっとAlpendorfの山頂まで来て、ここからは一気にダウンヒルである。標高差1,000mほどを一気に滑り降りる。下の写真はその途中から撮ったもので、前方にはSt. Johannの街が見える。その向こうの谷に沿ってハイウェイを行くと、その先がザルツブルグである。左右を切り立った岩山に挟まれたこの隙間に、昨夜ドライブしてきたアウトバーンが走っている。

この写真からもわかるように、ゲレンデから見る景色は、真っ白というよりは、かなり茶色が入っている。スキーアマデ全体が、アルプスのスキー場としてはあまり標高が高い方ではなく、ベース部分だと標高1,000mにも満たないというのが大きな理由だろう。また、ここしばらくはあまり雪が降っていないらしく、その影響もあるだろう。もっとも、ゲレンデの雪質は驚くほど良くて、降雪が無いことの影響はほとんど感じられないのであるが。

Alpendorf

Alpendorfで滑り残したコースをいくつか滑りながら、少しずつWagrainに戻っていく。最初に乗ったゴンドラの山頂駅まで来ると、Wagrainの村を見下ろすことができる。ただし、ここから一気に下まで滑ってしまうのではなく、山の中腹あたりまで滑っていって、そこからはG-Linkで谷越えというプランである。昨日の3Sに比べるとたいした規模ではないが、ここにゴンドラを架けたのは英断だ。スキーを履いたままで移動できる距離が、一気に倍増という感じである。下の写真は、左がGrafenberg側のG-Link乗り場、中央がG-Linkのゴンドラ、右がG-Linkから乗り継いでGrießenkareckに登っていく、Flying Mozartと名づけられたゴンドラである。

G-Linkの窓からは、Wagrainの町並みが見える。間もなく対岸に到着し、Flying Mozartに乗り換えて、そのまま山頂に向かう。

G-Link

Flying Mozartの山頂駅は、実際にはGrießenkareckの山頂ではなく、そこから少し下ったあたりとなる。そこからは大きく4つのコースがある。一つめは、今のぼってきたFlying Mozart沿いに降りるコース。二つめは、Rote 8erというゴンドラ沿いに、一気に麓まで降りていく一本道のコース。三つめは、Wagrainから見て反対側、Flachauのスキー場を降りていくコース。そして四つめが、盲腸のように横に伸びている、Top Liner-Muldeというリフトに向かうコースである。まずは四つめの選択肢から。中上級コースにリフトが1本、標高差233mの何でもないコースなのだが、他のコースから見えにくいところにあって、以外と穴場という感じがする。ちなみにこのリフトのトップが、AlpendorfからWagrain, Flachauと続くエリア全体の最高点、標高1,980mである。滑り終わった後は、標高差わずか116mのロープウェイに乗って戻ってくるという不思議なレイアウト。そして山頂まで戻ると、次は尾根を隔ててWagrainの反対側、今日三つめのスキー場、Flachauに入る。

Flachau

ここは何だか日本のようなスキー場だ。そうは言っても1,000m近くの標高差があるのだが、幅の広い緩斜面にリフトが沢山かかっていて、初心者でも安心して滑れそうな感じ、例えてみれば栂池高原とか岩原のような雰囲気である。こんな感じだと、私のようにまんべんなく滑りきろうという場合には、どこを滑ればいいのか逆に迷ってしまう。とにかく目に付いたコースを滑り降りて一気に麓まで。そこから6人乗り〜6人乗り〜8人乗りとリフト3本を乗り継いで山頂まで戻る。

その次は、一旦Wagrainに戻ってRote 8er沿いのコース。このあたり、WagrainとFlachauが完全に山頂を共有しているので、二つのスキー場を行き来しているという意識は殆どなく、とにかく山頂からいろんな方向に滑り降りてみているという感じである。Rote 8er沿いのコースは、非常にわかりやすい中斜面のダウンヒルで、一気に麓まで降りると、駐車場以外は何もない、シンプルなゴンドラ乗り場があった。

ゴンドラで山頂に戻ると、再びFlachau側に向かい、今度はさっき滑ったのとは違う方向に降りていく。Flachauのゴンドラにはまだ乗っていないので、それに沿って降りていけば、さっきとは違うコースになるはずだ。無事ゴンドラ乗り場に着くと、ゴンドラとリフトを乗り継ぎ、今日5回目の山頂に到着。あとはFlying Mozart沿いのコースを降りていけば、そのままWagrainに到着である。

Snow

麓に降りたら、スキーを脱いで宿までの道を歩く。時刻は午後2時過ぎ。7〜8分で宿に着くが、部屋には入らずそのまま車に乗る。残りの時間で遠征の予定である。慣れてきたのか、今日もあまり空腹は感じない。幸い昨晩のコンビニで買った菓子などがあるので、それをつまみながら車を走らせる。行き先ははっきりと決めていなかったが、2時間程度で滑りきれるところということで、Wagrainと同じSalzburger Sportweltに属する、Radstadt/Altemarktを目指すことにする。Wagrainからは、先ほど乗ったRote 8erのゴンドラ乗り場を通り、Flachauの町を抜け、アウトバーンをくぐっていけば、Altemarktの町に着くはずである。ところが途中で道を間違えてしまった。アウトバーンのインターチェンジに向かう専用道路に入ってしまったらしい。Uターンできる雰囲気でもないし、とりあえずそのまま行ってしまった方が良さそうだ。行先表示には"Villach"と書いてある。ザルツブルグから運転して来るときにも何度か見た地名だが、実際のところどのあたりにあるのか、いまひとつ良くわかっていない都市だ。ともかく次のインターで降りようと思ったら、次のインターはFlachauwinkl、別のスキー場の入口だった。まあここでもいいか。

Flachauwinklは、Wagrainと同じように、谷の両側の斜面にゲレンデが広がるところである。もっともWagrainのように集落があるわけではなく、高速のインターと、スキー場のセンターハウスがあるだけというような場所である。二つのゲレンデは結構離れているし、G-Linkのような移動手段があるわけでもないので、残りの時間でどちらを滑るかを決めなければならない。あまり深く考えずに、アウトバーンの東側にあるゲレンデの下の駐車場に車を停めた。そこからゴンドラと6人乗りリフトを乗り継ぐと、一気に尾根に出る。ここまでがFlachauwinkl、尾根の向こう側がZauchenseeである。ただしウェブサイトの分類に従えば、尾根の両側を合わせて一つのスキー場と数えることになる。

Zauchensee

目に入ってきたZauchenseeの景色は、これまで見慣れた茶色っぽいものとはかなり異なり、針葉樹に囲まれた真っ白い雪山という感じである(上の写真)。周囲を山に囲まれて麓の平野部が見えないためだろうか。なんだかずいぶん奥の方まで来たような気持ちになる。

尾根からZuchenseeに降りてくると、その向こうに、あと2方向から降りてくるコースがあるのが見える。しかし時刻はもう午後3時を過ぎている。昨日の二の舞でまたしても帰りのリフトを逃すわけにも行かないので、今日は片方だけで我慢することにしよう。そう思って距離の流そうな右側のゴンドラに乗ったら、ぐんぐんと登っていく。山頂駅の標高は2,113mとのこと。さらにすぐ横に怪しげなミニケーブルカーのようなものがあるが、これはワールドカップコースのスタートハウスまで登るもの(標高差70m)らしい。ただしこのコースは一般人は滑れないということで、そのままケーブルカーで降りてくる必要があるらしく、それならまあいいかと素通りする。そこからは麓まで一気にワールドカップのコースを降りた。途中には、ここがワールドカップのコースだよと、自慢げな看板が立てられていた。

あとはおとなしく帰りのゴンドラに乗ることにする。そしたらゴンドラで乗り合わせた年配の女性と世間話が盛り上がり、「このあとFlachauwinklに戻るコースの途中のヒュッテで友達みんなで食事をするんだけど、良かったら一緒に来ない?」と誘われた。なんだか楽しそうなので好意に甘えさせてもらうことにする。もうすぐリフトの営業が終わる時刻だが、どうやらその後でもコースを滑るのは構わないらしい。おまけに「暗くなっても、背中からコースを照らすライトを持ってるから大丈夫よ」と言ってバックパックを指差す。「私をスキーにつれてって」の沖田浩之ですか、と突っ込みたくなってしまうが、もちろんそんなの知らないだろう。ともかくコース途中のヒュッテに入ると、続々と仲間がやってくる。おじさんおばさんばかりだが、「今日は標高差9,000mぐらい滑ったねえ」なんて勇ましい話をしている。ドイツから来た人たちらしいのだが、アメリカに住んでいたこともあるとかで、「Aspenのスキー場もなかなかいいよね」なんて話で盛り上がった。昼食も取っていないことだし、ゆっくり食事をしようと思い、ウィンナーシュニッツェルを注文した。この旅で初めてのまともな夕食である。

彼らは本当に暗くなるまでいそうな雰囲気だったが、さすがにずっと居座るのもどうかと思い、5時過ぎぐらいで中座することに。外はまだわずかに明るいので、安心して滑り降りることができた。こういう経験をして気付いたのだが、そういえばコース中腹にあるヒュッテやレストランの数がずいぶん多い。そして午後に入ってからどこも何だか盛り上がっている。天気が良いこともあるが、同じアフタースキーでも、麓の店でやるより何だか楽しそうだ。

Snow

こうしてスキーアマデの第一日を終えて宿に帰ってきた。早起き、たっぷりの朝食、昼食抜きでひたすら滑走、車でゲレンデ間移動、夕方になってスキーを終えたらのんびり寛ぐ、といった按配で、今回の行動パターンがだいたい確立されてきた感じである。

宿で、Wasserwelt(英訳するとWater World)というプール施設のフリーパスを貰ったので、せっかくだから行ってみる。温水プールであるが、温泉のように身体が暖まるというものでもない。ジャグジーもあるがちょっとぬるい。早々に引き上げて宿に戻り、熱いシャワーを浴びて床についた。

本日の滑走: リフト・ゴンドラ23本/総標高差9,691m

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