8. 氷河 (Dachsteingletscher)

2014/2/28

ここまで6日間連続でスキーをしている。振り返ってみれば、自分のスキー人生の中で、最も長く連続して滑ったのが7日間だった。今日でその記録に並び、明日にはそれを越える。しかも、6日間で滑った総標高差は48,865mと、とてつもない数字になっている。しかし序盤に感じていた筋肉痛は、今では全く感じなくなってしまった。一方、道路での転倒で痛めた脇腹は、依然として痛み続けている。もしかして骨にヒビでも入ったかと思わないでもないが、痛みを感じながら滑るのにも慣れてきた。そんな感じで残り2日間であるが、ここからどう行動するかは決まっていない。しかしやる気は十分だ。昨日に続いて空は曇っているが、どうにか景色は見えるぐらいである。

残っているスキー場のうち、まずは近場から攻めようと、Wagrainから数キロほど奥に入ったところにあるKleinarlに向かうことにした。ここから尾根に登ると、その反対側は、4日前に行ったFlachauwinklである。すぐ近くなので、車で10分ぐらいで到着。リフト2本で900mほど登ると、山頂では小雪が降っている。そこから反対側のFlachauwinklに向けて滑り出す。前半は横に広がったボウル状のコースだが、途中からは林間コースのような感じに変わる。このあたりまで来ると、谷底のアウトバーンを挟んだ向かい側の斜面にもコースがあるのが見える。見えている範囲は同じFlachauwinklという名前だが、尾根の向こう側のZauchenseeと合わせて、今いるKleinarl-Flachauwinklとは別のスキー場という扱いである。そう、4日前にゲレンデで知り合った人たちと夕食を供にしたゲレンデだ。その手前にあるアウトバーンに向かっていくような感じで滑り込んでいくと、程なくスキーセンターに到着。ここからは、反対側のスキーセンターに移動するためのバスが出ているが、もちろんそちらに行くつもりはなく、いま滑ってきたルートをリフトで戻っていく。来た道をまっすぐ尾根に戻ってもいいのだが、尾根上の少し違う場所に登るリフトがあったので、そちらに乗ってみることにした。Absolut Shuttleという6人乗りリフトで、降りたところはAbsout Parkというスノーボード向けのパークの入口になっている(下の写真)。レールだのジャンプだのに行く気はないが、眺望の開けた気持ちよいコースなので、そのまま滑っていく。さっきまで降っていた雪も止んで、なんだか今日も良い天気になってきた。

Absolut Park in Flachauwinkl

リフト1本分を降りたら別のリフトに乗り、最初に来た尾根に戻ってきた。ここからはKleinarlに降りていく。ここはほとんど一本道で、西へ向かって滑っていくため、北側の平地はあまり見えず、平凡だがスキー場らしい眺めが続くコースである。

スキーを脱いで車に乗ると、Wagrainの町をそのまま通り過ぎ、次の目的地であるAltenmarktに向かう。4日前に行こうとして道を間違えたところだが、さすがにこの4日間でこのあたりの地理にも明るくなり、すんなりと到着することができた。

ここは小さいスキー場である。尾根の先端近くをピークとして、西側のAltenmarktと東側のRadstadtへと降りていくコースがあるという、これまでに何度もあったΛ字型のレイアウトである。標高差は721mで、スキーアマデの中では小さい方といえる。ここの山頂からは、西のAltenmarkt側にはFlachauのスキー場とその向こうの山々が(下の写真の左)、東のRadstadt側にはSchladming方面に続く開けた土地と、そのずっと先には今日これから向かうDachastein山塊が見えている(下の写真の右)。

Altenmarkt and Radstadt

Altenmarktの駐車場からは、ゴンドラで一気に山頂まで上がる。山頂付近は、Altenmarkt側からゴンドラとクワッドリフトが、そしてRadstadt側からもゴンドラとクワッドリフトが上がってきて、それらが複雑に交差している。それでもコースのバリエーションがそれほどあるわけでも無いので、まずはRadstadt側に向かって滑り降りる。そこからゴンドラで戻ってきたら、今度はAltenmarkt側に降りる。Altenmarktのコースには、ちょっとだけ横に逸れる変化があったので、そちらを滑ってからクワッドリフトで山頂に戻り、今度はゴンドラ沿いに一番下まで降りた。

このあと、いよいよ本日のハイライトであるDachsteingletscherに向かう。Altenmarktの町を出るとしばらくハイウェイを走るが、右手には、2日前に滑ったReiteralmやHochwurzenが見える。そしてSchladmingの町に入ったところで左折し、北側に向けて登っていく。ここはまだ山道ではなく、登った先ものどかな高原という感じなのだが、それでも標高750mのSchaladmingから400m近く登ったことになる。このあたりの高原はRamsau am Dachsteinと呼ばれ、リフト2〜3本が架かったスキー広場のようなところが点在している。そんなところを通り抜け、しばらく進むと、Dachsteingletscherへ向かう道の看板が現れた。そちらに曲がると道は細くなり、しばらくすると料金所があったが、リフト券で通行できたのはSportgasteinのときと同じである。そこから延々とつづらおりの山道が続き、目の前にはDachstein山塊の岩の壁が徐々に迫ってくる。ときどき道がくねって前方にSchladming方面のスキー場が見えるが、見上げるというよりは見下ろすような感じになってきた。これ以上はもう進めないだろうという気がしてきたところで、ようやくロープウェイ山麓駅に到着。既に標高は1,700mである。

Ropeway to Dachsteingletscher

ここから断崖絶壁にかかったロープウェイで山頂を目指す。山頂駅の標高は2,700mで、スキーアマデの最高点ということになる。ちなみに、この山頂駅から尾根伝いに2kmほど西に行ったところが、Dachstein山塊の最高峰であるHoher Dachstein(2,995m)ということになるらしい。

ロープウェイに乗り込むと、係員がドイツ語で何か言っている。「こっちから景色が見えるけど来てみるか」というようなことらしい。スキー板をロープウェイのキャビンの中に置いてついていくと、階段を登ってロープウェイの天井に上がった。どういうことかと訝しんでいると、なんとそのままロープウェイが出発してしまった。なるほど、確かにグングン登っていくにつれて素晴らしい景色が見えてくる。天気も良くなってきたので、寒さはそれほど気にならない。山頂駅がだんだんと近づいてくるが、見るからに岩のてっぺんという感じで、見ているだけで緊張してくるような場所にある。「クリフハンガー」という映画を思い出した。とてもスキー場とは思えない景色だが、裏側にはスキーで滑れるような斜面があるのだろう。そうこうしているうちに山頂駅に到着。振り返ると、見える景色は完全に「下界」という感じである。

Panorama from Dachsteingletscher

ここは一般の観光客も訪れる場所なので、展望台などの施設もいろいろとある。断崖の上には吊り橋が架かっている(下の写真)。氷の洞窟というのもあったが、中には入らなかったのでどんなものかはわからない。こうしたアトラクションが並ぶエリアの横に、スキー場へ向かう細いスロープが伸びている。

Bridge at Dachsteingletscher

スロープのすぐ前方はゲレンデである。そしてその先には、広大な氷河が広がっているのが見える。南側の切り立った山容とは対照的に、じつにゆったりとした眺めだ。氷河の向こうには、ザルツガンマーグートの山々が見える。その手前には、ここからは見えないが、世界遺産として有名なハルシュタットの町があるはずである。すべてスキーアマデの側からは見えない眺めだ。

Dachsteingletscher

ここのスキー場はペアリフトが1つとTバーリフトが3つ。標高差は435mで、さほど大きいわけではない。しかし、ゲレンデではないはずの広大な斜面をゆっくりと進んでいく人たちが見える。実は、ハルシュタットに近いところにDachstein Krippensteinというスキー場があるのだが、そこまで滑っていくツアーコースがあるらしい。Google Mapで見ると平面距離で5kmぐらいだから、志賀万座コースよりちょっと長いぐらいだろうか。いつかちゃんとしたガイドを雇って行ってみたい気もする。

羨ましがっていてもしょうがないので、ゲレンデを滑り始める。短い斜面を滑り降りたら、Tバーで山肌に沿って少しだけ登り、あとは一気に一番下まで滑る。斜度はそれほどなく、空気を味わいながら滑るための場所という感じだ。そこからリフト2本を乗り継いで戻ってきたら、ここでの滑走は終了。たいして滑ってはいないが、景色を眺めることができただけで、ここまで来た価値はあったと言えるだろう。最後にロープウェイ山頂駅直下の細いスロープのところに来ると、帰りの客のためのスノーエスカレーターがあった。

下りのロープウェイでは屋上には出ず、キャビンの中からのんびりと景色を眺める。徐々に下界に戻ってくるという感じ。山麓駅に降りて車に乗ると、すぐ近くに小さいゲレンデがある。実はここからRamsau am Dachsteinまでスキーで降りていくこともできるらしく、それならちょっと面白そうな気もするのだが、車を置いたままというわけにもいかない。Tバーリフト2本が架かっている範囲だけではたいしたゲレンデではないので、ここはそのまま通過してしまうことにする。Ramsauまで降りたら、点在する小さなゲレンデのうち、比較的大きなRittisbergというところに行ってみた。

Rittisberg

ここは特筆すべきことは何もないゲレンデだ。雪質もあまり良くない。あえて言えば、Dachstein山塊を間近に見ながら滑ることができるのが売りといえるぐらいか。その手前には、家の横の畑にTバーを架けてしまったというような感じの、超ローカルなゲレンデが見える。ここではリフト2本分を滑って早々に退却することにした。

まだ3時前なので、もう1つぐらい滑りに行けそうだ。ちょうど良い具合に、ここから宿に向けて戻っていく方向に、Filzmoosというスキー場がある。ハイウェイ経由だと通らないが、ローカルな道を通っていけばほとんど遠回りにもならない場所である。ハイウェイに比べると多少は曲がりくねった道だが、普通に運転して20分ぐらいで到着した。

Filzmoos

スキー客は結構いるのだが、あたりに雪が無い。ゲレンデの姿は上の写真(左)の通りである。苗場あたりで人工雪の細いコースを作り「11月3日オープン!」とかいって無理やり営業しているときの様子を見るかのようだ。リフトに乗ったら、足元は全く雪の無い茶色い草地だった。リフトを降りて滑り始めると、予想通りのジャリジャリ雪である。コースは奥の方に伸びているのでそちらに行ってみると、さらに別のリフトがある。そちらにも乗って山の上まで行くと、奥に進むコースがもう1本あるようだが、あまり変わりばえしないのでここで引き返すことにする。帰りは別のリフトに乗って、車を停めたところに戻ってきた。

ここFilzmoosスキー場はちょっと変わったレイアウトで、Ramsauから走ってきた道路が東から西に通り抜けているのに対し、その北側と南側の両方にゲレンデがある。いま滑ってきたのは北側のゲレンデだが、次は南側のゲレンデを滑ってみることにした。道路を渡ったところにはとても短いリフトがあるが、東の方にもう少し歩くとゴンドラがあるようなので、そちらに向かうことにした。このゴンドラの標高差が537mで、このスキー場最大ということになる。ゴンドラを降りてコースに向かうと、前方にDachstein山塊の綺麗な姿が見える。そういえば、道路の北側のゲレンデを滑っているときは、斜面が南を向いているため、これらの山もあまり良く見えず、加えて雪質も最悪だったわけだ。一方このコースは北向きであり、眺めが良い上に滑ってみると雪質も良い。こうしてゴンドラ沿いのコースを気持ちよく滑り、ここもなかなか悪くないじゃないか、と思いながら車に戻る。脇腹痛が無ければ、ゴンドラにもう1本乗れる時間だったけれど、まあ満足と言っていいだろう。第一印象だけで物事を判断してはいけないという見本のようなスキー場であった。

Snow

まだ外は明るいが、今日のスキーを終え、いよいよオーストリア最後の夜である。せっかくなので、温泉とサウナを堪能できたテルメアマデにもう1回行ってみることにした。一昨日より時間が早いので、露天風呂から山並みが綺麗に見える。今日もそれほど寒かったわけではないのだが、ゆっくりと身体をあたため、そのあとは途中でテイクアウトの夕食を買って宿に戻った。テイクアウトといっても、少しはオーストリアらしさを出してシュニッツェルサンドイッチである。これで食事も十分に満足。最後の夜も、これまでと同じようにあっさりと早寝をしてしまった。

本日の滑走: リフト・ゴンドラ20本/総標高差6,228m

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