第五日

2015/2/19

第五日の行程

国土地理院発行の地理院地図(電子国土Web) を元に加工(2015)

中国地方には、標高の高い山が少ない。

例えば四国には石鎚山(1,982m)や剣山(1,955m)があるし、九州だって、屋久島の宮之浦岳は特殊としても、大分から鹿児島にかけて、九重・阿蘇・霧島などの1,700m台の山々が連なっている。それに比べて中国地方はというと、せいぜい標高1,729mの大山が目立っているぐらいである。

それでも敢えて高い山のあるエリアを挙げるとしたら、大山の他には、兵庫・鳥取県境の氷ノ山一帯、鳥取・島根・広島県境付近の道後山や比婆山あたり、そして広島・島根西部の恐羅漢山周辺ということになる。これらのうち、氷ノ山の東側にはハチ北・ハチ高原などの有名スキー場がある。大山のスキー場もそれなりに有名だ。恐羅漢山がある芸北地区も、ここ二日間で廻ってみてわかったように、なかなか魅力的なスキー場が揃っている。ところが、スキー場という観点では全く地味なのが、中国山地のちょうど中央部に位置する道後山・比婆山あたりなのである。このあたり、備前と備後にまたがる地域の北部ということで、備北などと呼ばれることもあるようだが、観光地としても正直あまり有名とは言えそうにない。今日はそんな地域を通って鳥取県米子市に抜ける予定である。

この日はもともと予備日のつもりだったので、あまりきちんとした予定は立てていない。スケジュールが遅れていたら、瑞穂ハイランドでゆっくり滑って、そのまま浜田から山陰経由で米子まで移動すれば良いと思っていた。ところが、幸い順調に行程をこなし、芸北地区のスキー場はもう残っていない。そうなると、米子に向かう途中で寄っていくとしたら、どう考えても備北地域ということになる。

そうとわかっていれば、もう少し東寄りの三次あたりに泊まっていた方が好都合だったのだが、今更それを言っても始まらない。それにグリーンヒルおおあさの部屋は快適で、三次の安いビジネスホテルよりずっと良かった。ともあれ、今日は最初のスキー場までの距離が長いので、早起きをして早めに出発することにした。5時40分起床、6時30分出発である。

Snow

千代田ICから中国道に乗り、庄原ICで降りる。ここから国道183号を北上、鉄道でいうとJR芸備線に沿って進む。備後落合で左に逸れ、JR木次線に沿って走る国道314号を進む。途中、木次線を踏切で渡るところがあるのだが、まったく除雪されていないように見える。木次線って廃線になったんだっけと記憶を辿るが定かでない。さらにしばらく行ったところから脇道に入っていくのが、ひろしま県民の森スキー場だ。

天気はそれほど悪くないのだが、道路の雪が凄い。県民の森まで行くと行き止まりになる道なので、通る車も少ないのか、路面は真っ白である。轍も片道分しか無いので、対向車に備えてゆっくり走る。急坂が無いことだけが救いで、どうにか駐車場までたどり着いた。さっそくスキー靴に履き替えるが、ゲレンデが見えない。ふと前方を見ると、スキーをかついで雪道を歩いていく人がいる。後をついていくと、200mぐらい先にやっとゲレンデがあった。

ひろしま県民の森

ゲレンデを見上げると、目の前の緩やかなコースの向こうに急斜面があって、その上部は雲に隠れている。公園という名前のついたスキー場でもあり、昨日のもみの木森林公園と同じようなミニスキー場を予想していたが、良い意味で予想を裏切られた。リフト2本・標高差250mとスペックとしては小規模だが、なかなか期待できそうである。

平日の朝ということで、ゲレンデにはほとんど人がいないのだが、トイレに行こうと思ってレストハウスに入ったら驚いた。ホールのようなところに大勢の人がいて、スキーの準備をしている。ちょっと盗み聞きをしてみると、どうやら広島県の中学総体が行われるらしい。そのままリフト券を買いにいったら先客が一人だけいて、心配そうに「一般スキーヤーも滑れるんですよねえ?」と確認していた。

リフト2本を乗り継いで山頂へ。リフト沿いの「みずならコース」と、奥に行く「ぶなコース」とがあるので、まずはぶなコースに行ってみる。昨日に続き、フカフカ手つかずの新雪である。場内放送で、「大会が行われるので、選手以外の方はコースに入らないで下さい」と言っているのを聞き、ロープなどで仕切られたコースに入らないようにと注意しながら下まで降りたが、滑り終わって振り返ると、どうみても大会用コースである。まだ人が全然出ていないこともあり、入口に気付かずに滑ってしまったようだ。悪気は無かったので許してもらえるだろうと気を取り直し、再びリフトに乗る。下のリフトからでもみずならコースの中腹までは行けるので、そのまま下まで滑って上がることにした。

帰りの道も心配だったが、先に山を降りた車が数台はあったようで、一応逆向きの轍もできていて、少しは走りやすくなっていた。国道314号を再び北上し、島根県という看板が出たらすぐに、三井野原スキー場らしき斜面が左側に見えてきた。ちなみに読み方は「みついのはら」ではなくて「みいのはら」である。私は間違えて覚えていた。

三井野原

細い脇道を入って駐車場に車を停め、スキー靴に履き替えて歩いていくと、前方からリフト係員らしきおじさんがやって来た。

「ひどい状態ですけど滑りますか?」
「はい、1本だけでいいので滑らせて下さい」
「圧雪が追いつかなくて、全然滑りませんよ」
「いろんなスキー場を滑って廻っているんです。ここもぜひ滑りたくて」
「そういうことなら、うちはこの先にもう一つゲレンデがあるんで、ぜひそっちにも行って下さい」

予想外のコメントである。ここ三井野原スキー場は、リフト2本・標高差150mの小さいスキー場ということで、ゲレンデマップなども全くチェックしないで来てしまった。現地まで来てスキー場が二つに分かれていることを知るなど、初めての経験である。おじさんの話によると、この先にある方がメインゲレンデなのだが、入口がわかりにくいので、国道沿いの駐車場に車を停めて、線路を越えていくと良いということであった。

ともかくまずはここを滑る。この日も早朝には圧雪車を入れたらしいのだが、その後の降雪で一面深雪になってしまったらしい。確かに、ひろしま県民の森に比べても、このあたりの方が雪の降り方が激しいような気がする。リフトはすぐに山頂に着くのだが、そこからどちらを向いても新雪である。30度ぐらいの斜度があれば楽しそうなのだが、あいにく初心者コースしかない。それでも出だしのところは直滑降できたのだが、コースの下半分・斜度にして5度ぐらいのところでは、完全に止まってしまった。下り坂なのにラッセルしながら歩いて戻ってきたら、さっきのおじさんが「ちゃんと滑れなくて申し訳ないから」と言って、リフト1回券の代金200円を返してくれた。

車に戻って国道を少しだけ進むと、おじさんが言っていたとおぼしき駐車場が現れた。スキー場の駐車場とは明記されていないので、話を聞いていなければわからなかっただろう。そこからゲレンデに向かう途中、木次線の線路を越えていくのだが、やはり全く除雪されていない。すぐそこには三井野原の駅があるのだが、人の気配も無い。やはり廃線かと思ったが、後で調べてみたところ、ちゃんとした営業区間であるにもかかわらず、大雪のため毎年のように長期運休を強いられているとのこと。鉄道ファンからは「冬眠」と言われているらしい。

こちらのコースは圧雪が追いついており、距離は短いものの、普通に滑ることができる。雪の勢いが更に強まってくる中、2本滑って引き上げることにした。

国道314号

国道314号を備後落合まで戻り、今度は国道183号を北上する。今朝、庄原ICから北上してきた道の続きである。小さな峠を越えたら、前方にスキー場が見えてきたが、方角からいってたぶん道後山高原スキー場だろう。実際には、その手前にスノーリゾート猫山があるはずである。その先で看板が出てきて、右折すると猫山の姿も見えてきた。

スノーリゾート猫山

上の写真を見ればわかる通り、全貌をつかみやすいスキー場である。ところがリフト券売り場に行って驚いた。スキー場の最高点に行く第3ミッドノースリフトが止まっており、メインの中上級コースが一切滑れないのである。雪不足かあるいは平日の経費節減なのかはわからないが、かなりがっかりである。そうなると選択肢は第1フレンドリフトのみ。一応両側にコースはあるようだが、気勢を削がれてしまってリフト券1回分だけを購入する。

平日ではあるが、ゲレンデは賑わっている。このあたりのスキー場の中では、比較的マーケティングに力を入れているようで、ツアーバスなども来ている。センターハウスも、ピラミッド型の不思議な建物だ。メインコースは初中級向けとあるが、上から下までまっすぐ一本道で、上から降りてくるキャメルコースの出口を羨ましげに見ながら、あっという間に滑り降りてしまった。

道後山高原までは、いったん国道に出て約3km。あっという間のはずなのだが、途中から悪路になってきた。国道から何も心配せずに行ける猫山とは好対照である。除雪が不十分なうえに、局所的に急坂になっているところがあり、あわやスタックしそうになる。駐車場に着いたが車は少なく、ゲレンデも閑散としている。スキー場の資質は猫山と同じぐらいだと思うのだが、マーケティングの違いが如実に結果に結びついてしまっていることが感じられる。

道後山高原

中国地方にはよくあるリフトが縦に2本並んだスキー場だが、リフト券売り場で確認すると、上のリフトは動いていないとのこと。それならばリフト1本で十分と思い、1回券を1枚下さいと言うと、係の女性が「車道を通って降りてくるコースもあるんですよ」と教えてくれた。こちらの意図を見事に汲み取った提案であるが、残念ながら車道の迂回コースでは食指は動かない。そのまま1枚だけ買ってリフト乗り場へ向かう。幸い、このスキー場は下のリフトの方が長いので、上が運休でもダメージは小さいようだ。しかも、リフト降り場から見ると、上のリフトの乗り場までは結構歩かされるようだった。そのままリフト沿いのコースを滑って降りていく。雪がひどくなってきて、正直あまり印象に残らない。

時刻は正午を少しまわったところである。次の花見山スキー場までは、少し距離がある。花見山のすぐ近くにいぶきの里スキー場というところがあり、少なくともそこまでは今日中に行けるだろう。相変わらず地理感覚がないので、何も考えずにナビ任せで運転する。国道を進むとすぐに鳥取県に入り、しばらくはそのまま進む。そのあとの道も、道幅も広くて楽な運転だったが、あと数キロというところで様相が変わってきた。相変わらず良く整備された綺麗な道なのだが、上り坂の斜度がきつい。降り続く雪のせいもあって、またしてもスタック寸前である。昔の前輪駆動車なら4輪スタッドレスでも無理だっただろうが、3年前に買い換えたフィットシャトルのトラクションコントロールが活躍してくれた。

花見山

花見山スキー場は、センターハウスからゲレンデがほとんど見えない。経験上、こういうスキー場は良いスキー場が多い。というのも、見えないことで想像力がかきたてられ、数字以上に広さが感じられるのだ。このスキー場も、まさにその法則があてはまる好スキー場であった。事実上唯一のリフトである第3ペアリフト(第1と第2が無いのは廃止になったか)に乗ると、進むにつれて徐々にコースが見えてくる。リフトに乗ったときからは想像もつかない、開放的なゲレンデだ。リフト山頂駅は、花見山の山頂そのものではなく、そこから尾根伝いに少し降りてきたところ。尾根の反対側は岡山県である。

山頂からは、リフトから見えていたコースが3本と、県境の尾根を回りこんでいくコースが1本。1回券2枚しか買わなかったのはちょっと失敗だったか。まずはリフト直下のチャンピオンコースを滑って再度リフトに乗ろうとすると、係のおじさんが「いいからいいから」と言って1回分サービスしてくれた。ご好意に甘えて次は尾根伝いのホワイトロングコースを滑り、今度こそ最後のリフト券で登ると、不整地のパラダイスコースを滑った。大満足である。

次に向かういぶきの里スキー場は、花見山を挟んでちょうど反対側、岡山県の西北の隅にある。山頂どうしは直線距離にして2kmも離れていないのだが、どうやって行くのかが難しいところだ。今度もナビに任せていたら、峠に向かって細い道を登っていく。桑平峠というところらしい。まずかったら引き返そうと思いながら進むと、わりとすぐに峠に出た。するとそこに看板があり「二輪駆動車通行困難/岡山県」と書かれている。なるほどここから先が岡山県だ。鳥取県側の道は通行困難という程ではないので、鳥取県としては看板を出すほどではないのだろう。しかし峠のてっぺんまで来てからこんなことを言われても悩む。これから上り坂なら迷わず引き返すところだが、たぶんあとは下りだけだ。下りであれば、慎重に進みさえすれば二駆も四駆もあまり違わない。思い切って突入することにした。

つづら折りの細い道である。しっかり除雪はされているが、うっすら積もった雪が滑りやすいところもある。確かに上りだったら立ち往生していたかもしれない。ともかく慎重に、時速15kmぐらいで降りていく。幸い対向車に出会うこともなく、20分ぐらいで国道180号にたどり着いた。ここまで来ればあとはすぐである。

いぶきの里

いぶきの里スキー場は、駐車場がわかりにくい。最初に見つけたゲレンデ脇の駐車場には、「温泉施設の駐車場です。スキーの方は駐車しないで下さい」と書いてある。仕方がないので別の駐車場を探して進んでいくと、国道の下を通り、ずいぶん遠くの駐車場に来てしまった。「ゲレンデまでのシャトルバスあり」と書かれているが、停まっている車もないし、とてもバスが出るようには見えない。たぶん週末だけのことだろう。スキー場職員らしき人が作業をしていたので聞いてみたら、「スキー場の横の駐車場に停めていいですよ」とのこと。だったらそう書いておいてくれたらいいのに。

ここも実質的にはリフト縦2本のスキー場である(その他に短い初心者コースが1本ある)。綺麗なセンターハウスがあり、ゲレンデの周囲はフェンスで覆われているので、めかびらスキー場と同じ入場券方式かと思ったが、実際にはそんなことはなく、1回券を2枚買ってゲレンデに向かった。

なにしろ今日6つめのスキー場だし、相変わらず雪模様で景色もあまり見えないので、なかなかスキー場の印象が残らない。多少のコースバリエーションはあるようだが、テクニカルコースからイルミネーションコースと、中央部をまっすぐ降りてくるコースを滑ってそのまま撤収する。時刻は午後3時。もう一つ行けそうだ。

いぶきの里まではともかく、もう一つというのは考えていなかったのだが、ここまで来ると米子自動車道沿いのスキー場も近い。米子道沿いには多くのスキー場が点在しているので、明日まとめて滑ろうと思っていたのだが、その中で一番近くにありそうな、ひるぜんベアバレーに行ってみることにした。国道180号は一旦鳥取県に入るが、その先で国道181号に入るとすぐに岡山県に戻り、国道を逸れて20分ばかり走るとひるぜんベアバレーだった。到着したのが3時50分で、もしかしてリフトが4時までなら急がなくてはと思ったが、リフト営業は16時55分まで、しかもそのあともナイターがあるということで、ひとまず安心である。ペアリフト1本の両側にコースがあるようなレイアウトなので、1回券を2枚購入した。

ひるぜんベアバレー

ちょうどいい具合に天気が良くなってきて、最後の1本はいい気持ちで滑ることができた。ゲレンデマップには、コースの真ん中にある「きつね岩」というのが目印のように書かれているのだが、雪をかぶっていて良く見えず、代わりにその横にある高い木が目立っていた。滑り終わると4時15分。あとは米子の町へ向かうだけだ。スキー場の近くの集落で看板を見たら「熊谷」と書いてあったのは予想通りである。

米子まではたいした距離ではないので、下道で行っても一時間とかからない。途中で給油を済ませ、駅からすぐ近くの「ビジネスイン・よなご」にチェックイン。とにかく部屋代が安い(1泊2,500円)ので予約したのだが、まさに昭和のビジネス旅館といった佇まいである。あたりは繁華街なので手ごろな食堂でも見つかるかと思ったが、どうも居酒屋ぐらいしかないようで、結局ちょっと歩いたところでイオンを見つけ、フードコートで夕食を済ませてしまった。宿はバストイレ共用だが、大浴場はなかなか快適である。その後は、ひさしぶりにつながったインターネットで明日以降の行き先について調べたりしていたら、11時近くになってしまった。早寝の習慣はなかなか続かないものだ。

本日の滑走: 7スキー場、リフト15本

本日の走行距離: 271km

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