第九日

2015/2/23

第九日の行程

国土地理院発行の地理院地図(電子国土Web) を元に加工(2015)

最後の一日となった。

明日、ぜひ東京に居なければならない理由があるわけではない。しかし、三重県まで戻ってきたことで、気持ちは既に帰り支度を始めている。これが東北からの帰路で福島あたりにいるのであれば、気が変わって更にスキー三昧ということもあるかもしれない。でも三重県ではそうはならない。スイッチはもうオフになってしまったのだ。

とはいえ、そのまま寄り道もせずに帰るつもりは毛頭ない。そもそも、関西から東京に帰るのにあたって、岐阜経由ではなく三重経由としたのには理由がある。こんなときでもなければ寄ることもない、三重県唯一のスキー場・御在所に寄っていくのである。その後は、愛知県唯一のスキー場である茶臼山高原にも行く予定だ。

御在所ロープウェイの営業開始が9時なので、のんびりとホテルの朝食を食べ、7時40分に出発した。ロープウェイ山麓駅のある湯の山温泉までは、下道で1時間もかからない。平日ということもあってガラガラの駐車場に車を停めて、ロープウェイのチケット売り場に向かった。

御在所ロープウェイ

チケット発売は5分前からということで、窓口はまだ閉まっている。あたりを見ると、ロープウェイを待っている観光客らしき人が数名。スキーヤーはいない。こちらの姿を見て「スキーができるんですねえ」なんて話している人もいる。5分前になってやっと窓口が開いたので、ロープウェイ往復券を購入。帰りのこともあるので「運転間隔は何分ですか」と聞いてみたら、「1分です」という予想外の回答。ロープウェイという名称から、雲辺寺や石鎚のように、大きなキャビンが行ったり来たりするものを想像していたが、そうではなくてゴンドラリフトのように箱が次々と進んでいくタイプらしい。なるほど、それで発売開始が5分前なのかと納得する。9時になって改札を抜けると、建物の中をぐるぐると歩いて乗車口へ。ここで気付いたのだが、これから乗り込むキャビンが止まっている。普通のゴンドラやデタッチャブルリフトは、ゆっくりとはいえ動いているものだが、こういう仕組みのロープウェイもあるのかと感心する。

扉が閉まってキャビンが動き出すと、そこからは一気に登っていく。中腹からはかなり高い所を通る。途中にある鉄塔は日本一の高さだとかいう案内放送が流れている。すると今度は「作業員が途中で乗降するため、しばらく停止します」とのアナウンスがあった。確かに途中の鉄塔を良くみると乗り込めるようなステップがあるが、あたりは岩だらけで、かなり怖そうなところである。

一旦止まったロープウェイが再度動き出し、左手には奇岩「鷹見岩」が見えるという案内放送が聞こえたりしているうちに、山頂駅に到着した。そこから古びた建物の中をしばらく歩いていくと、屋根続きの所にリフト乗り場がある。「観光リフト」と呼ばれているらしいが、途中からはゲレンデの上を通り、スキー用のリフトも兼ねているはずだ。スキー場のウェブサイトでは、これには乗らずに歩いてゲレンデに向かうように書いてあるが、どう見てもこれに乗った方が早そうだ。しかし、観光リフト専用券の自動販売機はあるが、スキー用の一日券は買えない。係員に聞いてみると、ゲレンデの売り場で買ってくれということ。しかしその一日券でこのリフトにも乗れるのだから不思議な話である。結局その係員が「乗っていいですよ」と言ってくれたので事なきを得たが、本当はどうすることが想定されていたのだろうか。

御在所

板を抱えてリフトに乗る。リフトが建物の外に出ると、右手にゲレンデが見えてきた。手前が初級コース、奥が中級コースである。ゲレンデマップには上級と書いてあるが、どう考えても中級がいいところだろう。ちなみに反対側左手には、ソリ広場とレストハウスのようなものが見える。全体的に一昨日の石鎚と似たような作りだが、途中の深い谷が無いので、ずっと穏やかである。

この観光リフトには中間駅が二つあるのだが、最初の「カモシカ駅」で降りて少し歩くと、スキー用のチケット売り場がある。平日料金1,000円で一日券を買い、まずは初級コースのリフトに乗ってみた。さっきの観光リフトに対し、こちらは「スキーリフト」と呼ばれている。平日の朝で、他にスキーヤーはいない。リフトの係員が、「今日は雪が悪くて申し訳ありませんね」と声をかけてくれる。やはり、ここ数日の雨と暖かさで、一気に雪が緩んだらしい。初級コースから見えるのは、谷を挟んで反対側の中級コースだけで、眺めもあまり良くない。そのまま滑り降りて中級コースに向かうことにした。

観光リフト第2の中間駅「スキーハウス駅」からは、スキーを履いたまま乗車することができる。とはいえ、ロープウェイから乗り継いでくる観光客もいるので、山頂駅はスキーヤーも徒歩客も降りやすいように工夫されている。降りたところは御在所岳の山頂で、ちょっとした展望台になっている。尾根の向こうは滋賀県だが、曇っていてあまり景色も見えない。一方、そこから振り返ってゲレンデ側を見ると、初級コースにいたときとは反対方向を見ることになる。そしてその初級コースの向こう、ロープウェイ山頂駅がある小高いピークの更にずっと先には、伊勢湾がしっかりと見えていた。

御在所スキー場からのパノラマ

大山からの日本海、四国の3スキー場からの瀬戸内海に続いて、またしても海を眺めながらのスキーである。ゲレンデコンディションは最悪だが、そんなことは気にすまい。そのゲレンデも、整備されたところを下まで滑ってしまうと、そのあとの歩きが大変なので、半分ぐらい滑ったところから横にエスケープしてリフト乗り場に向かう。そんなことを繰り返していると、向かいの初級コースに何人かのスキーヤーの姿が見えるようになった。時刻はまだ10時であるが、6本滑ったところでもう満足、下山することにした。最後はカモシカ駅まで行って逆向きの観光リフトに乗るのだが、歩きが面倒なので一旦スキーリフトに乗る。コースを滑ってカモシカ駅から観光リフトに乗ったら、反対方向のリフトに乗ってやってきた人に「もう帰るんかい」と声をかけられた。「朝からもう十分滑りましたので」と答えたが、まさに本音である。

下りのロープウェイに乗っていると、登ってくるロープウェイが大混雑しているのが見える。どのキャビンにも大勢の観光客が乗っているようだが、スキーヤーらしき人は見当たらない。平日とはいえ昨日は日曜日、麓の湯の山温泉はなかなか賑わっているようだし、10時にチェックアウトした人たちが「ちょっと御在所岳にでも登ってみようか」ということで来ているのだろう。ともあれ、そういうお客さんが沢山いれば、ロープウェイの経営が行き詰まることはないだろうし、スキー場にとっても良いことには違いない。山麓駅から駐車場に向かって歩いていたら、家族でスキーに来たらしきお父さんに「スキー場は滑れますか」と聞かれたので、「滑れますけど雪はグチャグチャですよ」と本当のことを答えておいた。

Snow

次の茶臼山高原までは、名古屋を横断してのドライブである。まずは東名阪道に乗る。最寄のインターチェンジは四日市ICであるが、斜めにショートカットしようと下道を行ったところこれが失敗。細い道を右往左往する羽目になり、11時過ぎにようやく桑名ICに到着。そこからは順調に高速を進み、名古屋高速経由で上社JCTに着いた。ここのジャンクションはややこしくて、結局道を間違えて高速を降りてしまったが、それほどの遠回りでもなく猿投グリーンロードに入った。この有料道路が終わると、あとは単調な国道ドライブが続く。153号線を延々と走ったあと、257号線に入ったと思ったらすぐに茶臼山高原道路に入る。最後の方になって少しだけ雪が見られるようになったが、運転に注意が必要なほどでもなく、午後2時にようやく茶臼山高原スキー場に到着した。

茶臼山高原

天気は曇り。あたりは生ぬるい風が吹いている。ゲレンデにはスキーヤーが数名。足元はベチャベチャである。正直なところあまり期待できそうな感じではない。

ここのスキー場は、同じところに2本のリフトが平行に架かっている。ただし1本はセンターハウス前から、もう1本は少し前方からで、山頂駅は同じ場所だ。長い方の第1リフトが初中級用で、短い方の第2リフトが上級用という位置付けらしい。こういうときはリフト1本で中間駅を設けることが多いのだろうが、第2リフト乗り場の直前で第1リフトが車道を跨いでいくというレイアウトのため、中間駅を作るのも難しいのだろう。あるいはスキー場ができた頃には、リフトが2本必要になるぐらいの来客数だったのかもしれない。もちろん今だって休日は混雑しているのかもしれないけど。

リフト山頂駅の近くには、綺麗に仕切られた公園のようなところがある。春には一面に芝桜が咲くらしい。リフトを降りると、なだらかなコースが続く。正面には、ほんの1〜2km先に、愛知県最高峰・茶臼山が見えるはずなのだが、あいにく雲がかかっている。途中から分岐する上級コースは閉鎖で、第2リフトも止まっており、そのまま正面に降りて第1リフトに戻る選択肢しかない。途中からは滑っているのか歩いているのかわからないような状態だが、とにかくもう1本だけリフトに乗り、それで切り上げることにした。この旅最後のスキーは何とも味気ないものになったが、これならそろそろ東京に帰ろうかと、納得できて良かったのかもしれない。

Snow

あっという間に滑り終わってしまったので、まだ2時30分過ぎだ。ナビで「自宅に帰る」としてみたら、午後7時40分到着予定と出た。これならかなり余裕がある。茶臼山高原は微妙な位置にあって、東名と中央のどちらの高速を使うのかが悩ましいところなのだが、ナビの指示は中央道である。往路で新東名を走ったこともあり、帰路は素直にナビに従うことにする。

山を降りるとすぐに国道151号に出て、あとは延々とこの道を走り続ける。飯田までは50kmぐらいで、1時間ちょっとで着いた。ここで高速に乗れば簡単だが、時間に余裕があるので国道153号を走る。松川・駒ヶ根・伊那・伊北とインターチェンジを見送り、辰野からは国道を逸れて山道に入った。有賀峠を過ぎて諏訪の町に出たあたりで、さすがに周囲も暗くなってきた。結局もう一つ諏訪ICを見送り、諏訪南ICから高速に乗ることにした。あとはそのまま中央道を行くだけで、八王子ICには8時ちょっと前に着いた。

9日間で3,500km近くを走り、38ヶ所のスキー場を滑るという贅沢な旅だったが、終わってみればあっけないものである。もちろん達成感もある。中国四国方面で残っているスキー場は、兵庫県北部に8つと、島根と山口に1つずつということになった。その他に、週末だけ営業しているところが4つあるはずだ。兵庫の8つにはぜひ行ってみたいが、それ以外のスキー場にも行く機会はあるのだろうか。その前に九州のスキー場にも行ってみたい。北の方にもまだまだ未知のスキー場が残っている。そしてもちろん海外にも。

そして、できるならば、次はまた違う海を眺めながら滑ってみたいものだ。

本日の滑走: 2スキー場、リフト10本(御在所ロープウェイ及び観光リフトでの移動を除く)

本日の走行距離: 470km

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