5. 標高差 (Gastein)
2014/2/25
5時過ぎに起きたら両腿が猛烈な筋肉痛だった。無理も無い。Ski Dubaiはともかく、一昨日と昨日の二日間で、標高差18,371mを滑っている。若い頃には雫石のゴンドラに一日5本も乗ったこともあったが、それでも4,000m強だ。最近の家族スキーだと、一日2,000mも行かないのではないだろうか。それがいきなりこの滑走距離だ。さて、残りの期間、身体はもつのだろうか。とはいえ、目の前にスキー場がある以上、今日も滑りに行かないわけにはいかない。
昨日に続いて雲ひとつない快晴である。朝食を済ませて車で出発する。今日の目的地は温泉地としても有名なGasteinというエリアで、宿のあるWagrainから見ると西の方角、最初の目的地であるDorfgasteinまでは30kmぐらい離れている。長野に泊まって志賀高原か野沢温泉あたりまで遠征するような距離だが、もっとずっと近く感じる。途中、St. Johannという小さなスキー場を通るので寄ってみたが、リフトは動いていなかった。コースを見ても雪が少なく、営業していないようだ。もっとも、後で調べたところ、公式にはここはAlpendorfスキー場の一部という扱いになっているようで、ここを滑れても滑れなくても、25個のスキー場制覇には影響は無いらしい。そういう打算は何だか趣味人としての品位を欠くような気もするが、ともかく、オープンしていないことにはどうしようもないので、そのままDorfgasteinへ向かうことにした。
Gasteinertalと呼ばれるこのエリアは、南から北に流れるGasteiner Ache(やがてSalzach、Inn、Donauへと続く)という川沿いに続く深い谷である。ハイウェイからトンネルを通ってこの谷に入ると最初に現れるスキー場がDorfgasteinであり、ここから谷の東側の尾根に向けて長いゴンドラが登っている。そして尾根を挟んで反対側の谷に下りていくのが、Großarltalというスキー場である。Dorfgasteinの標高差が1,184m、Großarltalの標高差が1,122m。尾根の高さを感じさせる値だ。
車を停めると、まずは最初のゴンドラに乗り込み、標高差1,165mを一気に登る。登りきったところから振り返ってGasteinertalを見渡したのが、上の写真である。左の方に向かうとさらに谷の奥となり、この後向かう予定のいくつかのスキー場がある。また、ちょうど正面の方角が、オーストリア最高峰Großglocknerのはずであるが、写真に写っている一番高い山がそうなのかどうかについては、ちょっと自信が無い。
Dorfgastein側に枝のように伸びたコースを1本滑った後、Großarltalに降りていく。尾根から谷へ降りるわけだが、しばらくは支尾根のようなところを降りていくため、眺望の良い快適なコースが続く(下の写真)。その支尾根が落ちていくのは、スキー場の名前にもなっているGroßarltalという谷で、支尾根が終わると徐々に谷底の村が近づいてくる。一番下まで降りたらすぐに登りのゴンドラに乗るが、このゴンドラは支尾根の途中までしか登らないので、そこから横の谷に向かって少し滑り、もう1本リフトに乗って尾根に戻る。あとはDorfgastein側のコースを一気に滑れば、標高差1,100m越えのスキー場二つを制覇したことになる。時刻はまだ午前11時ちょっとだが、早くも今日の総標高差が3,000mを越えた。
再び車に乗って川沿いの国道を10分ばかり走ると、Bad Hofgasteinという町に着く。ここで最初に乗るのは、いかにもヨーロッパのスキー場という感じのケーブルカーだ。その山頂駅でロープウェイに乗り換え、2本で一気に標高差1,200mを登ってしまった。山頂はSchlossalmと呼ばれているが、このあたり、山の上というよりは台地のような地形で、そこに縦横無尽にコースが作られている。そこから斜めに谷の方を眺めると、Gasteinertalで最も大きな町であるBad Gasteinが見える(下の写真)。このあとは、谷を越え山を越えてこのBad Gasteinに向かい、また戻ってくる予定である。
いったん谷に降りたところはAngertalといい、Gasteinertalからは横に切れ込んだ支流沿いの場所にあたる。そこからさらにリフトを乗り継ぎ、Stubnerkogelという山のピークに立つ。この山は何とも不思議な味わいのある山で、西側・北側・東側から見ると、まったく凹凸のない綺麗なお椀型の山があり、その斜面には滑走を遮るものは何もなく、ただひたすらにコースが広がっているのである。山頂に立ってみると、わずかに南側だけが奥の山々に向けて尾根のように連なっているのが見える。そしてその南側の山を見渡せる場所に、下の写真のような吊り橋が架かっていて、ちょっとしたアトラクションのようになっている。
ここからは、Bad Gasteinの町に向かって一気に滑り降りる。中腹からは林間を縫っていく下山コースである。Bad Gasteinの町は、温泉目当ての観光客も来るようなところだけあって、さすがに賑わっている。そしてここからゴンドラでStubnerkogelの山頂に戻ると、来た道を逆に辿るように、Angertalを経てSchlossalmに戻っていく。
Schlossalmでは、ロープウェイ山頂駅には戻らず、その奥の方の山の陰に沿って登るリフトを乗り継いでいく。登ったところはHohe Scharteといって、標高2,300mというのは、Bad Hofgastein/Bad Gasteinエリアで最も高いのだが、峠のようなところなので「高いところまで来た」という実感はあまり無い。そしてここからBad Hofgasteinのケーブルカー山麓駅までのコースが、スキーアマデ全体の中で、最も大きな標高差である1,443mを一気に滑ることができるコースなのである。
このコース、間違いなく今回のスキーで最大標高差のコースとなるので、かなり楽しみにしてきたのだが、実際に滑り始めてみると、谷伝いに進むため眺望もあまり無く、傾斜の緩いコースが延々と続いていくばかりで、滑走の充実感という意味ではちょっと期待外れという感じである。それでも、スタート地点の雪に包まれた感じから、少しずつ里の茶色い景色が見えてくるまで、とにかく延々と滑っているという実感はある。最後には、数時間前に乗ったケーブルカーの線路が見えてきて、その下をくぐったところでこのエリアは終了。本日の総標高差は8,700mを越えた。時刻はもうすぐ3時である。
このあと行くべきスキー場の候補は二つある。ひとつは、先ほど行ったBad Gasteinの町から川を挟んだ反対側にある、Graukogelというスキー場である。しかし、Stubnerkogelのゲレンデから遠目に見た感じでは、人が滑っている姿もよく見えず、リフトが動いているかどうかもわからなかった。今朝のSt. Johannの例もあるので、クローズということも考えられる。とはいえとりあえず様子だけでも見てみようと思い、そちらに向かって運転していったのであるが、Bad Gasteinの町は、切り立った渓谷沿いに細い道が続き、一方通行も多く、なんだかよくわからずに元の国道に戻ってしまった。これで気勢を削がれてしまったような感じになり、何となくそのまま目的地を変更して、もう一つの候補であるSportgasteinに向かうことにした。
Sportgasteinへは、国道を谷の奥に向けてひたすら走っていけば良い。ちなみにこの国道、道路としてはこの先で行き止まりになってしまうのだが、そこから車を列車に積み込んでトンネルを越えていくカートレインという仕組みがあるらしい。そのカートレインの駅に向かう道とも途中で別れ、さらに山奥へと進んでいく。谷もかなり細くなり、いよいよ山岳道路という雰囲気になってきた。途中に料金所があったが、リフト券を見せたら無料で通行できた。そこからさらにどんどんと進んでいき、いよいよ不安になってきたあたりで急に視野が開け、Sportgasteinに到着。完全な行き止まりである。
ここには集落のようなものは一切無く、レストハウスと、その横から上に伸びていくゴンドラが見えるだけである。この場所で既に標高1,600mということで、あたり一面は真っ白だし、これまでに見たスキーアマデのスキー場たちとはかなり違った雰囲気を感じる。
さっそくゴンドラで山頂へ。標高差は1,066m。山頂からは、たったいま車で登ってきた谷沿いの道と、その向こうのBad Gasteinの町が良く見える。ここから降りるコースはいくつかあるようだが、山全体が開放的なので、どこを滑ってもそんなに違わなさそうな感じである。コースを変えて2本滑り終えると午後4時をちょっと回ったところ。まだゴンドラは動いており、最後の1本に食指が伸びかけたが、もう十分だろうと自分を戒めて本日の滑走を終了。ふと気付いたが、今朝感じていた筋肉痛は、いつの間にか気にならなくなっている。そしてこの旅で初めて一日の総標高差が10,000mを越えた。
来た道を戻ってBad Gasteinの町へ。一番大きな町なので、ちょっと寄り道してお土産でも見ていこうかと思ったが、道が入り組んでいて、どこに停めれば良いのかもよくわからない。おろおろしているうちに町を通り抜けてしまったので、そのままBad Hofgasteinへ。ここにはスキーのときに車を停めた大きな駐車場があることがわかっているので、再びそこに車を停めると、ケーブルカーの方ではなく町の方へ歩き出した。途中、アルペンテルメという温泉施設があって心を惹かれたが、水着もタオルも何も持ってきていないのでパス。もう少し進むと町の中心部に入り、店の数も多くなってくる。結局、土産物屋で少し買い物をした後、夕食用にサンドイッチのようなものを買って撤収することにした。買い物をしている間は、まだ薄暗いという程度だったが、帰る頃には真っ暗になっていた。
本日の滑走: リフト・ゴンドラ23本/総標高差10,861m