国土地理院発行の地理院地図(電子国土Web) を元に加工(2015)
「自由は、あり過ぎると扱いに困る」とは、紀行作家・宮脇俊三氏の第二作「最長片道切符の旅」の冒頭の一文である。会社勤めをしながら休日をやりくりしてローカル線巡りをしていた氏が、会社をやめて長い自由時間を手にし、旅行の計画を立て始めたときの言葉だ。
よもや自分が同じような立場になるとは思わなかった。
2014年に、5年に一度しかもらえないリフレッシュ休暇を活用して、オーストリアのスキー場めぐりをしてきた。その旅行記を書くときに、宮脇氏の処女作「時刻表2万キロ」を私は引き合いに出している。そしてその一年後の2015年、転職することになった。溜まっていた有給休暇を消化することにして、まさに扱いに困るほどの自由を手にしてしまったわけだ。
最初は、再びヨーロッパを訪れることを考えた。例えば、世界最大のスキーエリアと呼ばれるイタリアのドロミテなどを思う存分滑るというのは、実に魅力的なプランだ。しかし、前回のオーストリア旅行から一年しか立っていない。幸い夫/父の自分勝手な振る舞いに対しては随分と寛容な家族に恵まれているが、それでも本人としては少し気がひける。お金だってかかる。どうしようかと考えているうちに、時間ばかりが流れていく。
そんな状態が続いていたが、実は以前から暖めていた計画がもう一つあった。西日本のスキー場めぐりである。関東在住の人はあまり知らないだろうが、兵庫県や鳥取県、広島県などにもスキー場はたくさんある。四国にだって多少はある。しかし飛行機に乗っていく手間を考えると、それならいっそ海外の方が、とこれまでは考えがちであった。今回、あえて海外を選択肢から外すとしたら、俄然候補として上がってくるではないか。
例えば、島根県と広島県の県境近くには、瑞穂ハイランドというスキー場がある。ここは標高差が721mもあって西日本最大と言われている。西日本どころか、日本アルプスより西にあるスキー場の中では2番目の標高差である。鳥取県の大山スキー場は長い歴史を持つ由緒あるスキー場で、おそらく日本海の眺めが綺麗だろう。四国の雲辺寺スキー場からは、瀬戸内海が見えるらしい。そしてまだよく知らぬ小さなスキー場の中にも、思いがけない魅力が見つかるかもしれない。
これまで西日本スキーの計画を立てようとすると、まずは広島か米子あたりまで飛行機で行ってそれからレンタカーを借りてなどと考えたあたりで、なんだか面倒くさくなってしまうのが常であった。しかし今回は時間に余裕がある。飛行機にこだわらずに自分の車で行くという手もある。何より、比較的積雪の少ない地域を訪れるのに、二月の寒い時期を使うことができるというのが好条件である。逆にあまりいつまでも悩んでいると、徐々に雪が溶けはじめ、機を逸してしまうことになる。そんなふうに考え出したら結論が出るのは早い。家族で過ごす週末を楽しんだ後、日曜日の夜に出発することにした。2015年2月15日のことである。
国内旅行ということもあって、事前準備はほとんどしなかった。手元にあるスキー場ガイドの情報がかなり古くなっているので、スキー場がまだ存在するかどうかをインターネットで確認したぐらいである。行程もちゃんと決めていなかったのだが、出発当日の夕方に、最初の4泊の宿だけ駆け込みで予約した。広島県で3泊、鳥取県で1泊である。ちなみに初日の夜はサービスエリアで仮眠の予定だ。
夕食を取って、午後8時過ぎに出発。ガソリンは昼のうちに満タンにしてある。八王子から中央道に乗る。このまま中央道で小牧まで行ってもよいのだが、8ヶ月ほど前に新しく開通した圏央道を通って東名に抜けるルートを選択する。実際には、こちらを行っても距離は10kmぐらいしか違わないらしい。八王子JCTから未知の区間に入るが、夜だしトンネルが多いこともあって特に珍しい景色が見えるわけではない。あっという間に相模原愛川ICを通過。ここからは何度も走ったことのある道だ。
海老名JCTから東名に入り、御殿場を過ぎたところで新東名に入る。こちらは3年ほど前の開通だが、やはり通ったことがない。とはいえ、従来の東名よりもかなり山側を通ることもあって夜景すらほとんど見えず、ただナビの画面を見て、初めての道を走っていると納得するぐらいである。単調なドライブであるが、幸いなことにここ数日は睡眠が足りていて、眠くなる気配は無い。浜松いなさJCTで新東名が終わり、一旦高速を降りるような雰囲気かと思ったが、そのまま支線を走って東名に合流。そろそろ今日の予定の中間点も過ぎただろうということで、直後の新城PAで休憩することにした。時刻は午後11時30分ぐらいである。
写真はイメージです
特にすることもないので10分ぐらいで出発し、ひたすら東名を走る。名古屋を過ぎたあたりで、さすがにちょっと疲れたという気がしてきたので、羽島PAで念のためもう一度休憩。再度出発すると、40分ぐらいで多賀SAに着いた。ここが本日の目的地である。レストランや売店のあるあたりを通り抜けると、奥の方に「レストイン多賀」という施設がある。ここにはホテルと入浴施設があるのだが、入浴施設の方には仮眠室が設けられているのだ。そこの受付を済ませたのが午前1時20分。今日は6時間まで800円というコースを使う。さっそく風呂に入ると、温泉では無いとはいえ、運転の疲れが取れる。風呂を出て仮眠室に向かうと、寝心地の良さそうなマットレスが並んでいる。日曜の夜ということで、それほど混んでもいない。持参の毛布をかぶって、すぐに眠ってしまた。
本日の滑走: なし
本日の走行距離: 418km
旅行中に毎日の走行距離を記録するのを忘れてしまったので、帰宅後にGoogle Map上で測定しなおした距離を本稿には記載しています。そのため、道を間違えて迂回した分などは含まれず、実際の走行距離よりも若干少なめの値となっています。