第三日

2015/2/17

第三日の行程

国土地理院発行の地理院地図(電子国土Web) を元に加工(2015)

雨の日のスキーに良い思い出は無い。1998年のシーズンにはスキーに行った先で二度も雨に降られ、田沢湖高原と新穂高ロープウェイ、どちらもゲレンデ直下まで行きながら滑るのを断念した。そしてどちらのスキー場も数年後に廃業してしまい、もう永遠に滑ることはできない。もちろん断念したのには同行の友人への遠慮もあったわけで、今回は一人旅だから多少の雨でも強行するつもりである。とはいえ、やはり雨の中のスキーはつらい。だからこの朝、かろうじて雨が上がっているのを見て、安心した気持ちになったのは確かだ。

龍頭ハウス

部屋で簡単な朝食を取って、7時半には出発する。良い宿だった。これから二日ないし二日半かけて、芸北地域のスキー場10ヶ所を制覇しようと思う。ちなみに芸北というのは安芸の国の北側という意味で、広島県北部の島根県境に近いあたりを指す。そういう計画なので、あと2泊はこのあたりに泊まりたかったのだが、あいにく龍頭ハウスは取れず(水曜日が定休日だからか)、別の宿を予約してある。

最初の目的地は恐羅漢スキー場である。恐羅漢。日本で最も怖い名前のスキー場ではないだろうか。宮城県のオニコウベ(鬼首)と東西の横綱を張る感じだが、あちらがカタカナを使って少しでも柔らかいイメージを作ろうとしているのに対し、こちらは正々堂々と漢字で名乗っている。

名前だけでなくアクセスも怖い。ウェブサイトによると、どうやら2種類の行き方があるらしいのだが、近道と思われる県道経由は推奨されていないようで、大規模林道とやらを通ってくるようにとある。きっと県道は余程の悪路なのだろうが、林道というのも穏やかではない。でもまあ推奨に従うのが無難なので、戸河内ICの近くで給油した後、国道191号経由で大規模林道に入った。

せっかく雨が上がったと思ったのだが、途中から再び降り始める。前途はあまりあかるくない。大規模林道を走っていると、左右に「○○滝」とか「××淵」といった小さな看板がたくさん出ている。有名な観光地である三段峡が近いからだろう。そういえば、三段峡には27年前の秋に来たことがあるが、台風の影響で遊歩道が壊れていて、途中までしか行けなかった記憶がある。

恐羅漢

恐羅漢スキー場に到着。大規模林道は思ったより良い道で、怖がるほどのことは無かった。やはり名前のせいで妙な先入観があったかもしれない。8時を少しまわったところだが、お客さんはそこそこ来ている。ここは1回券が500円と高いし、それなりの本数は滑りそうなので、3時間券3,300円というのを買うことにした。そうしたら窓口の人が「メンバーズカードを作ると300円引きになります」と教えてくれた。住所やメールアドレスの登録も不要らしく、「じゃあお願いします」というだけで割引だ。不思議なシステムだと思う。

霧雨ではあるがわずかに降っているので、念のためポンチョを着てゲレンデに出る。全体的にガスがかかっていて、眺望にはあまり期待できそうにない。マップを見ると、「ブナ坂/ヒエ畑」「立山」「かやばた」という3つのゲレンデがあるらしい。ブナ坂とヒエ畑は別扱いになっているが、隣接していて同じゲレンデのようなものだ。今いる場所は、真ん中にある立山ゲレンデの麓なので、まずはリフトに乗ってかやばたゲレンデに向かうことにする。

立山第1ペアリフトを降りたら、かやばたゲレンデに向かいそうなコースが見えたので滑ってみる。しかしレストハウスの前で行き止まりだった。しょうがないので上り坂を歩いて戻る。そこからもう1本リフトに乗って、今度は確実に繋がっていそうな連絡コースを見つけた。かやばたはリフト1本だけのゲレンデだが、リフトに中間駅があるのでちょっと長めの印象である。リフト山頂駅までくると、霧雨が雪に変わっていた。

まずは砥石郷コースというのを滑ってみることにする。リフト降り場から進んでいくと「左側ガケ、右側滑走」という謎の看板を発見。コースを覗き込んでみたが、どのへんまでが左側でどのへんからが右側なのか良くわからない。ビクビクしながら右側寄りを降りて行ったが、見える範囲では左の方にもそれほど危ない崖は見えなかった。危ないのはもっとずっと左の方だったのだろうか。

もう一度かやばたの山頂に戻って、今度はリフトの反対側の夏焼コースを滑る。こちらがメインコースのようだ。途中から立山コースに戻る道があり、そこからリフトに乗って立山ゲレンデの山頂へ。山頂といってもかやばたよりはかなり低い。そこからさらに斜めに進み、反対側のブナ坂/ヒエ畑ゲレンデに入った。ここはリフト2本分の立派なコースで、上のリフトを降りた所は、広島県最高峰・恐羅漢山の山頂直下(山頂まであと66m)である。ここまで来ると雪質もかなり良くなり、降っている雪も雨っぽさがなくなってきた。快適なので、リフトの両側・ブナ坂第2コースとヒエ畑第2コースを両方とも滑る。そのあとは立山ゲレンデに戻って駐車場へ。下の方に戻ってくると、やっぱり雨が降っているのがちょっと悲しい。

やわたハイランド191

大規模林道を戻っていくと、徐々に霧が晴れ、雨足も弱くなってきたように見える。これならポンチョはいらなそうだ。国道191号に出てさらに島根方面に進んでいくと、正面にスキー場が見えてきた。やわたハイランド191である。スキー場の名前に191と入っているのは、国道191号のすぐ前にあるかららしい。確かに国道からよく見える。今回のスキーで初めて駐車場料金500円を取られる。

ゲレンデは、中央にやや長めのリフトがあり、山頂からはだいたい3種類のコースを選んで降りてくることができる。コースの間が森でさえぎられているところを含めて、昨日のちくさ高原ととても良く似たスキー場である。当然のように1回券を3枚購入し、リフトで山頂へ。ちなみに山頂部は県境にあたり、ゲレンデの反対側は島根県である。リフトで登ってきた広島県側を眺めると、高原状に穏やかな地形が広がっている。その向こうには恐羅漢山が見えるのだが、中腹から上は雲の中だ。なるほど、こんな雲に覆われたら、先ほどの恐羅漢スキー場の天気もやむなしという気持ちにさせられた。

昨日からの雨のせいもあってか雪質はあまり良くなかったが、中斜面主体のレイアウトは滑りやすく、それなりに快適な3本を終えて駐車場に戻る。次は芸北高原大佐スキー場である。

芸北高原大佐

いったん国道191号を離れて10kmほど県道を行くと、国道186号に出る。どちらも同じように戸河内から山陰を目指す国道だが、前者は益田市、後者は浜田市に向かう。あまり来ない地域ということもあって、どうにも地理がわからない。ともかく、国道186号を浜田方面に進むと、すぐ先の左側に大佐スキー場が見えてくる。ちなみに「たいさ」ではなく「おおさ」と読む。やわたハイランドと同じく、国道に接したアクセスの良いスキー場だ。ただし、アクセスの良さのせいか、小さなスキー場なのに1000円の駐車場料金を取られたのはちょっと閉口した。

駐車場の前には広い一枚バーンがひろがっている。その上にもう1本リフトがあるらしい。どうもまた天気が悪くなってきたようなので、再びポンチョを着てゲレンデに出る。さっそく2本分のリフト券を買って上まで行ってみた。

やわたハイランドと同じくここも県境にあるスキー場で、まさに県境を成している尾根沿いにリフトが上がっていく。上のリフトを降りると、その先の尾根にはさらにリフト1本分のコースが続いているのが見える。昨日のわかさ氷ノ山でもそうだったが、コストカットのために一番上のコースを閉めるという例は多い。一番上のコースは上級者向けであることが多く、一部のスキーヤーしか滑ることができないためなのだろうが、ちょっと残念である。でも、こうやってコストカットして運営していくのも、今の時代にローカルスキー場が生き残っていくための手段なのだろう。気を取り直してチャンピオンというコースを滑って降りることにした。

適度な斜度があって気持ちのいいコースである。今日はあいにくの天気だが、好天ならばさぞ眺めが良いだろうと思わせるコース取りだ。ただ、粒の大きな雪が降り始めて、顔に当たるのがちょっと痛い。そうしてチャンピオンコースを滑りきると、下のリフト沿いのゲレンデには直接滑り込むことはできず、短いスノーエスカレーターに乗って少しだけ登る。あとは幅の広いコースをゆっくりと滑り、駐車場に到着である。

ここからは広島県側に戻る。しばらく行くと、そろそろ次の目的地の芸北国際スキー場かというあたりで、リフトとコースが見えてきた。そのままそちらに向かってみたが、近づいてみるとどうも違う。土日のみ営業の雄鹿原高原スキー場であった。ナビを確かめると、こちらに気を取られている間に芸北国際への入口を通り過ぎてしまったようで、少し引き返して正しい道を見つけた。そこを入ると大きな看板があって、「左:国際エリア、右:おーひらエリア」となっていたが、どちらが良いのかもわからず、適当に左を選ぶ。

芸北国際

芸北国際スキー場に到着。時刻はもうすぐ午後1時だが、あえて1日券を購入(クーポンを使って4,000円)。実は、次に行くユートピアサイオトもこの券で滑れるらしいのだ。ゲレンデに出ると、まずは国際エクスプレスというクワッドリフトに乗る。今回のスキーで初めてのデタッチャブルリフトだ。

あちこち行って見てつくづく感じたのだが、西日本のスキー場はリフトが遅い。全体的にそれほど寒くないということもあるかもしれないが、それでも経営が成り立っているという面も大きいのだろうか。お客さんも、そういうのが当たり前だと思っているように見える。1年前のオーストリア旅行で、最新の機動力がどんどん投入される様子を見てきたのを思い出し、スキー場が置かれた状況の差をまざまざと感じる。日本のスキー場は、こうやって縮小均衡へ向かっていくのだろうか。

ともあれクワッドである。やはり早い。このスキー場には4本のリフトしかないのだが、そのうち2本がデタッチャブルリフトである。しかももう1本は6人乗りだという。海外ではあちこちで見かけたが、国内で6人乗りリフトがあるのは、2015年時点ではここだけらしい。やっぱり速いリフトはいいなあ、と思いながら、おーひらエリアへと滑り込んでいくと、その先にはおーひら第1というペアリフトがあるのだが、残念なことにこれが遅い。いや多分普通の固定式リフトの速さなのだろうが、クワッドに乗ったばかりなので遅く感じる。しかも結構距離が長い。さらに言うと、このリフトはスキー場のレイアウト上きわめて重要な位置にあるのだ。

ともかくリフトを降りたらおーひらエリアに滑り降りる。何故おおひらではなくおーひらなのかはわからない。おーひらエリア中央部に雄姿を現した6人乗りリフト・おーひらエクスプレスは、1,700mという長さで一気に山頂まで運んでくれる。そして山頂からは、そのままリフト沿いに降りるセンターコースなどを滑るか、あるいはやや横に滑り込んでカケズエリアを目指すかという二つの選択肢がある。スキー場側としては、おーひらエクスプレスでセンターコースを繰り返し滑ってもらおうと思っているのかもしれないが、実はこのスキー場で一番楽しいのは、カケズエリアの方だと私は思う。上の写真がまさにそうだが、森で区切られた雰囲気の良いコースがいくつもあり、どれを滑ろうかと考えるだけで楽しくなる。ところが、これらのコースの多くは、たっぷり滑り切ったところでダラダラの緩斜面となり、さらにそのあと行き着く先は、さきほどのおーひら第1ペアリフトの乗り場なのだ。このあと遅いリフトに乗り、さらにおーひら側に滑っていって6人乗りリフトに乗ると考えると、ひどく効率が悪い。緩斜面の手前から山頂まで、もう1本のクワッドリフトが架かっていれば、かなり素晴らしいスキー場になると思うのだが。

ぼやいていてもしょうがないので、その面倒な手順を踏んで山頂に戻る。今度は素直にセンターコースを降りてみた。こちらも決して悪くはない。時間があって天気が良ければ、私だってここを3〜4本は滑っただろう。しかし今日は時間がなくて天気が悪い。なので2度目のおーひらエクスプレスの後は、国際エリアに戻るべくカケズエリアを滑っていった。できれば少し違ったコースを滑りたかったのだが、看板の案内がわかりにくく、結局さっきと同じコースを滑ってしまった。でもまあ良いコースである。そのあとは残念な緩斜面が続き、おーひら第1リフト乗り場に到着。おーひらエリアに戻るならこのリフトに乗るが、国際エリアに行く場合は更に緩斜面を滑り続ける。やっと緩斜面が終わったと思ったら国際エクスプレス乗り場だが、このエリアはあまり広くなく、最初の1本で十分という感じなので、そのまま駐車場に戻ることにした。

ユートピアサイオト

芸北国際から国道186号に戻り、ちょっと行ったら再び枝道に入る。そこから14kmほどでユートピアサイオトに到着。妙な名前だと思ったが、どうやら才乙という地名があるらしい。

芸北国際で買った一日券が使えるといっても、そのままで有効というわけではなく、サイオトの券と取り替えてもらう必要がある。ちょっと珍しいシステムである。既に午後3時近くということもあり、通常のリフト券売り場での扱いが終わっており、別棟の事務所まで行かされた。ともあれ、クローズまで有効のリフト券を入手し、スケジュール的にもここが今日最後のスキー場となることから、あとは好きなだけ滑ることができる。相変わらず降ったり止んだりの天気が気になるが、ゲレンデに出たら小降りになった。

このスキー場のレイアウトは説明が難しいが、基本的にはYの字の形である。ただし下部のリフトがY字の下の棒より左側にあって、その更に左側にもコースがある。上の写真で見えているのがそのリフトで、リフトの右側がY字の下の棒にあたるセンターコースである。まずはこのリフトで中腹まで上り、さらにもう1本のリフトに乗って、Y字の右側にあたる頂上に出た。また雲が出てきたようで、あたり一面ガスの中である。景色も全く見えない。チャレンジコースというところを滑った後は、別のリフトでY字の左側の頂上に登る、ここからメダリストコースというところを滑ると、途中にテクノコースという別コースの入口があるはずなのだが、よくわからなかった。その後は、せっかくなのでもう一度右側のリフトに乗ってチャレンジコースを滑り、そのままセンターコースで下まで降りた。

もう一度写真のリフトに乗って、今度はその左側のイエティコースを滑ってくる。ゲレンデマップでは中上級とあるが、穏やかなコースだ。しかしまた雨が降ってきた。下まで降りた時点で4時15分。あと1本滑っても良かったが、雨続きの一日でかなりめげてしまい、そのまま撤収することにした。

今日の宿泊先は、浜田自動車道沿いの大朝というところにある。先ほど通ってきた国道186号と浜田道との間には、いくつか道が通っているのだが、どこが深い山で通行不能なのか、どこがすんなりと通り抜けられそうなのか、地理不案内で全くわからない。サイオトの前の道は、峠を越えて島根側の旭テングストンスキー場あたりに通じているようだが、案内所で聞いてみたら冬期通行止めということだった。なのでいったん国道186号に戻って南下すると、すぐに「左:大朝」という道路標識が出てきた。どうやら次の道は通行可能らしい。実際に走ってみると、山らしい山もなく、すんなりと大朝に出ることができた。どこか良い店があればそのまま食事にしようかと思ったが、飲食店は全く見当たらず、やむなくスーパーへ。弁当でも買って宿で食べようと思ったが、こちらも品揃えがいまひとつで、結局セブンイレブンに移動することに。こういうところにも地方の疲弊を感じつつ、美味しそうな弁当を見つけて安心し、本日の宿である「グリーンヒルおおあさ」にチェックインした。

グリーンヒルおおあさ

ここも公共の宿らしい。値段は格安だが、部屋は広い和室でコタツもある。すぐ隣は大朝運動公園というところなので、合宿などでも使われるのだろうか。チェックインしたのは5時過ぎ。かなりの空腹で、暖かい弁当を早く食べたかったが、それ以上に雨中のスキーで身体が冷えている。公共施設らしいシンプルで小綺麗な風呂に入り、じっくりと身体を暖めたあとは、コタツに入ってビールを飲みながら弁当を食べる。天候には悩まされたが、それでも恐羅漢と芸北国際という大物ふたつをしっかりと滑り、加えてあと三つのスキー場も堪能できた。明日以降のスケジュールを考えても、なかなか実りのある一日だったと言っていいだろう。

本日の滑走: 5スキー場、リフト26本(スノーエスカレーター1本を含む)

本日の走行距離: 120km

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