第七日

2015/2/21

第七日の行程

国土地理院発行の地理院地図(電子国土Web) を元に加工(2015)

巡礼ということについて考えてみた。

そんなことを考えたのは、もちろん四国に来たからである。宿で「お遍路ですか?」と聞かれて、自分のやっていることが実は意外とお遍路さんに似ているような気がしてきた。宗教的な巡礼と単なるレジャー施設めぐりを同列に語るのもおこがましいが、最近のお遍路さんの中には宗教色の薄い人も多いらしい。様々な場所を踏破していくという行為には、何かしら人を厳かな気持ちにさせ、あるいは内省的にさせるものがあるのだろう。そういえば、日本百名山をすべて制覇する人というのも、最近は多いらしい。

今日は四国のスキー場をすべて廻る。お遍路を引き合いに出した直後に恐縮だが、昨日の雲辺寺を入れても、四国にスキー場は5つしかない。5つもあるのかと驚く人もいるかもしれないが、それだけである。ちなみに高知県に天狗高原スキー場というのがあって、これを入れると6つになるのだが、ホテルの付属施設らしく、ふらっと行っても滑れるのかどうかも怪しいので、ここは除外することにした。残る4つのスキー場は、徳島県に1つと愛媛県に3つである。

旅人の宿くぐる

7時に宿を出る。宿は善通寺の近くだが、ここから山の方に向かう道沿いに八十八箇所巡りの霊場は無く、代わりに金刀比羅宮の近くを通って讃岐山脈に入っていく。国道32号線が峠を越えると徳島県だが、さほど険しい道ではない。

これから向かうのは、徳島県唯一のスキー場である、井川スキー場腕山である。腕と書いて「かいな」と読む。井川腕山スキー場と名乗らない理由はよくわからない。ここは大変な悪路を通っていかなければならないスキー場で、公式サイトや様々なブログなどを見て、ずっと怯えていたといっても過言では無い。とはいえ、幸いなことに昨日はとても良い天気だった。行くとしたら今日しか無い。

国道32号から国道192号に入り、その後すぐにスキー場の看板を見つける。ここから山に入って18kmぐらいのはずなのだが、最初はいたって普通の道である。しかし、数km進むと道が細くなってくる。雪はまったく無いが、とにかくすれ違いができるのかどうかが心配である。すると「対向車接近表示システム」というのが設置されているのを見つけた。対向車があるとどこかが光ったりするのだろうか。しかし、仕組みがわからないのでどうにも安心できない。まだ朝早いので対向車が無いのが救いである。心配な運転が続くせいで、時間が長く感じられる。いったいどこまで行ったら着くのだろうと思っていたら、ついに路面に雪が現れはじめた。ところどころ道が広くなっているところで、チェーンを巻いている車を見かける。いよいよ心細くなってきたところで、ようやく駐車場に着いた。駐車場の標高は1,095mで、これまでに訪問したどのスキー場よりも高い。ここまでの道ではわからなかったが、駐車場にはかなり多くの車が停まっている。確かに今日は土曜日なのだが、それにしてもみんな根性があるなあと、自分のことは棚に上げて感心する。

井川スキー場腕山

駐車場からセンターハウスまで歩いていくと、上の方にゲレンデが見えてくる。それほど広いゲレンデではない。すぐに目に入るコースは1本だけで、それを無理やり2つに分けて別コースと称している。それに迂回コースを加えて3本という構成らしい。とにかくリフトに乗って上まであがり、コースの方を眺めてみた。

驚くほどの絶景である。吉野川沿いの谷が見えるだけかとあまり期待していなかったのだが、とんでもない。前方に讃岐山脈があるのは予想通りとしても、その向こうが見えるのである。今いる場所の標高は1,175m。讃岐山脈の西の方はせいぜい標高900mぐらいしかないので、なるほどその向こうが見えても不思議ではない。昨日の雲辺寺は夜だったが、今度は昼間の瀬戸内海を見ながら滑ることができる。さらにその向こうに目を凝らすと、中国山地らしき山並みがうっすら見える。正面で白い雪をかぶっているのは大山だろうか。右の方の白い山は氷ノ山だろうか。何とも嬉しい誤算であった。

コースそのものは何と言うことはない。迂回路も含めて3本滑って終了である。1本が短いのであっという間に終わる。たった3本であの道を戻るのかと思うと、ちょっと躊躇しないでもないが、たくさん滑ったからといって帰りの運転が楽になるわけでもない。駐車場に戻って車を出すと、係員が「もう帰るのか」と訝しげな顔をしていた。

まだ9時半かそこらだから、次々と登ってくる車とすれ違う。狭いところでスタックして登れなくなっている車があり、悪戦苦闘しているのを見ながら対向車線で待つ。やっと脱出したのでこちらも車を進めると、別の車が来てすれ違い困難になった。バックでやり過ごそうかと思ったが、さすがのトラクションコントロールも後ろ向きでは威力半減で、スタックして後ろに進めない。これはまずいかと思ったが、対向車の方がどうにかすれ違いのスペースを確保してくれて、かろうじて先に進むことができた。その後も、時間帯を考えれば当然とはいえ、次から次へと対向車が現れる。しかし幸運にも退避スペースがうまいタイミングで現れ、どうにか下っていくことができた。国道192号に出たのは10時15分頃である。いやはや予想通りの悪路であった。昨日からの晴天にもかかわらずこれなのだから、雪が降っている日などはとんでもないことになるだろう。まさしく「日本で最も到達困難なスキー場」の最有力候補と言っていいのではないだろうか。

Snow

ここからは一気に移動する。次の目的地である石鎚スキー場まで、100km近くの距離である。井川池田ICから徳島自動車道に乗り、ジャンクションが二つ続く複雑なエリアを経て松山自動車道に入る。このままいよ西条ICまで行くのが最も早いのだが、気まぐれで一つ手前の新居浜ICで降りてしまったのが失敗だった。新居浜市内を抜ける国道11号は所々で渋滞し、ほんの5kmを抜けるのに20分近くかかってしまった。それでも国道を逸れてからは順調で、両側を高い山に挟まれた谷間を順調に走っていく。間もなくロープウェイが見えてきた。駐車場を探したところ、土産物屋の軒下のようなところをくぐって行くところしか見つからなかったが、中が広くなっていて、どうやらこれが通常の駐車場らしい。時刻はもうすぐ正午というところ。

石鎚ロープウェイ

駐車場から山の方を見上げると、ロープウェイのケーブルが延びているのが見える。それはいいのだが、山麓駅とおぼしき建物があるのはずいぶん上の方だ。昨日あたりから、やけに歩かされる巡り合わせのようだ。チケット売り場では、ロープウェイ+リフト午後券3,500円というのを買う。午後券の開始時刻12:30まではまだ少し時間があるが、「上に着く頃にはそれぐらいの時間になってるでしょう」とのこと。さっそく乗り込んだロープウェイは、最初のうちは谷間の地味な景色しか見えないものの、標高を上げるにつれて眺めが良くなってきて、途中でついに瀬戸内海が見えるようになった。これはゲレンデでも期待できそうだ。

さて、これから向かう石鎚スキー場のゲレンデだが、これが実に難しい形をしている。公式サイトの案内図などを見て予習をしたのだが、それでも実際に現地に立っていると、どこがどうなっているのか全然わからない。とにかく地形そのものの複雑さを理解しないと全体像を把握できないので、等高線入りの図を作ってみた(下図)。

石鎚スキー場のレイアウト

国土地理院発行の地理院地図(電子国土Web) を元に加工(2015)

ロープウェイ山頂駅に到着しても、すぐにゲレンデがあるわけではない。駅の外には2本の道があるが、案内図と照らし合わせると、右に行けば初級ゲレンデ、左に行けば連絡リフト経由で中上級ゲレンデということらしい。まずは初級からということで、右側の細い道を100mばかり歩くとゲレンデに出る。短いリフト1本だけの地味なゲレンデである。開放的なゲレンデで、眺めだって悪くないが、いかんせん滑るところが無い。リフトの長さはわずか150mということである。ともかくリフトに乗って短いコースを滑り元の場所に戻ってくると、そこから第6リフトという連絡リフトで移動することにした。

ここから先がややこしいところである。第6リフトはごく普通の連絡リフトなのだが、降りたところで目に入ってくる景色が、案内図から想像するものとは大きくかけ離れている。案内図では、ここからさらに第1リフトというリフトが斜面沿いに上がっていっているだけのように見えるのだが、実際には目の前には深い谷があり、第1リフトはその谷の斜面に沿って下り始めるのである。これが結構怖い。連絡リフトということで、外したスキー板を抱えて乗っているため、両手の自由が効かないのが余計に不安を煽る。それでも、途中からリフトが上昇を始めると多少は不安も和らいできた。中間駅を過ぎるとゲレンデの横を登っていくようになり、しばらくして山頂に到着した。

石鎚

ここは標高1,414mの名もないピークであるが、初級コースに比べるとずいぶん高いところまで来た。中上級ゲレンデ越しに前方を見渡すと、その先の初級ゲレンデのさらに向こう側に、遠く瀬戸内海までもが良く見える。昨日の雲辺寺、今朝の腕山に続き、瀬戸内海の見えるスキー場三連発である。いや天気の良い日に来て本当に良かった。

ちなみにここからちょっと歩くと、石鎚神社成就社という立派な神社があるらしい。石鎚山の頂上はそのずっと向こうで、標高にして570mの登りである。そちら側の景色も眺めてみたが、ちょっと雲が出ているようで、石鎚山のピークは良く見えない。とはいえ海側の景色が良く見えるだけでも良しとすべきであろう。さっそくコースを滑り始める。

第1リフト降り場のちょっと下に、中上級コースに沿って架けられた第3リフトの降り場がある。第1リフトは主に連絡用なので、普通に滑るときはこちらのリフトを使う。その下は、リフトのすぐ横を下りる上級コースと、少しだけ大回りしていく中級コースとがあるが、実際に滑るとどちらもあっという間である。とにかく眺望を満喫しながら短いコースを滑り続けるというのも、雲辺寺や腕山と同じで、結局ここでは9本ほど滑った。帰りはコース中腹の中間駅からリフトに乗り、再び怖い谷越えの後、今度は第6リフトには乗らず、歩いてロープウェイ山頂駅を目指す。途中でちょっと開けた下り斜面があったので、そこはスキーで滑ってしまった。

下りのロープウェイで山麓まで戻ったら、次の目的地のソルファオダまで、再び100kmほどのドライブである。本日中にあと2つのスキー場に行く予定だが、幸い久万スキーランドにはナイターがあるので、それほど時間の心配はない。いよ小松ICから松山ICまで高速に乗り、そのあとは国道379号を延々と走る。ごく普通の走りやすい国道だ。そこから国道380号を経て県道に入り、さすがにスキー場の近くらしくなってきた登り坂を進むと、ゲレンデの見える駐車場に着いた。午後3時30分である。

ソルファオダ

ソルファオダスキーゲレンデという名称はちょっと不思議だ。普通はスキー場とかスノーリゾートなどと名乗り、そこで個々の斜面をゲレンデと呼ぶものであるが、ここではスキー場全体が「ゲレンデ」と名乗っている。駐車場から少し降りたところにリフト乗り場があり、長さ1,000m(四国最長らしい)の高速ペアリフトで一気に山頂まで登る。そこから降りてくるコースがリフトの両側にあるので、1回券2枚で良いと踏んでチケット売り場へ。そのままリフトに乗って山頂まで行ったが、片側に見えるテクノコースは残念ながら閉鎖である。リフトから見えた感じでも、確かにちょっと雪が足りないようだ。仕方がないので、もう片方のアイデアルコースを2本滑ることにする。久しぶりに距離の長いコースを滑るが、やはり気持ちがいい。しかし、四国山地の比較的地味なエリアに入り込んだこともあり、眺望という点では特筆するほどのものは無い。

4時過ぎには切り上げて、この日最後のスキー場である久万スキーリゾートに向かう。途中で雨が降り始めた。この時間まで天気がもってくれたことに感謝である。

久万スキーリゾート

5時30分に久万スキーリゾート到着。松山市内から近いせいか、ここは入場料金制となっており、1,000円払って入場券を買う。すぐにリフト券も買おうと思ったが、ゲレンデを見るとリフトが動いていない。ちょうどナイター前のゲレンデ整備時間にぶつかってしまったようだ。待ち時間のあいだ、レストハウスに入って夕食を済ませることにする。昨日食べそこねたうどんを注文したが、どこにでもある普通のうどんだった。

6時になってリフトが動き始めた。相変わらず雨が降っているので、4日ぶりにポンチョを着る。それでも大雨という程にはならず、気温が高いこともあってさほど不快ではない。あたりが徐々に暗くなってきて、ナイター照明の光が綺麗である。ただ、ロケーションとしては谷間であり、晴れた昼間であってもあまり良い景色は望めないだろう。関東で言うと、カムイ御坂あたりと似たような感じだろうか。コースはリフトの両側にあるので、素直に2回滑って上がることにした。

これで今日のスキーは終わりだが、予約してある宿はずいぶん離れている。松山からしまなみ街道で本州に戻り、岡山県倉敷市の水島というところまで、約200kmの夜間走行である。まずは松山市内に向かうのだが、この区間は最近できた三坂道路というのがあって、非常に快適である。松山市内に入ったところで、そろそろガソリンを入れなければと思ったら、リッター121円という超格安のスタンドを見つけた。さっそく入ってみたが、よく見ると「外税」と書いてある。東京近辺でこういうのは見たことがなかったが、なるほどそういうトリックか。まあ8%を足しても標準的な値段なので、そのままここで給油することにした。ところが、給油を終えて一万円札で代金を払ったところ、現金ではなくプリペイドカードで釣り銭が出てきた。大手の系列でもないこんな店にまた来ることなど無いので、これは大変だと思って事務所に行ったところ、すぐに現金に変えてくれて事なきを得た。とはいえ、まあいいかと思ってあきらめる客も、一定数いるのだろう。

その後は、松山市内で多少の渋滞にあった後、海沿いの一般道を今治北ICまで行き、そこから西瀬戸自動車道に入った。ここから尾道まで、しまなみ街道の楽しいドライブのはずだが、既に夜で外は真っ暗、雨も降っており、景色など何も見えない。道路標識に書かれた島の名前だけが、大三島・生口島・因島などと変わっていくのを見ながら、何とも味気ないドライブで瀬戸内海を越えた。そのまま走っていれば山陽道に入るのかと思っていたが、どうやら勘違いだったようで、いつの間にか国道2号線に入っている。面倒なのでそのまま下道を進み、この日の宿である倉敷ビジネスホテル水島に着いたのは、午後10時50分である。そのまますぐに寝たいところだったが、ネットを見ながら翌日の行動について頭をめぐらせ、どうにかホテルの予約だけを済ませ、実際に蒲団に入ったときには午前1時になっていた。

本日の滑走: 4スキー場、リフト17本(石鎚ロープウェイ及び第6リフトは除く)

本日の走行距離: 501km

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